社会のあり方やテクノロジーの変化に伴い、世界中の企業が経営戦略を変化させていますが、それと同期して人材戦略も大きな転換期を迎えています。日本でもジョブ型の雇用が拡大していますが、欧米では仕事の範囲や役割を規定する「ジョブ型」から、その仕事を遂行するスキルに着目した「スキル型」へシフトしています。
そこで注目されているのが、「スキルベース組織(Skill-Based Organization)」というコンセプトです。この組織モデルを実現するには、AIをはじめとするテクノロジーの力が不可欠であり、結果として従来HR領域には参入していなかったMicrosoftのような大手企業も、新たなプレイヤーとして市場に参入しています。
この動きは世界的なトレンドとして広がりつつあり、日本のHR業界も影響を受けつつあります。本記事では、TBWAHAKUHODOの二階さんと礒原さんに、この潮流が生まれた背景と今後の展望について深掘りしてもらいます。
ジョブ型からスキル型への背景
もともとジョブ型雇用が当たり前であった米国で「ジョブ型の限界」が指摘され始め、スキルを軸とした雇用へとシフトする動きが強まっています。その大きな理由は、企業がイノベーションを生み出し、成長し続けるために必要があったから、というところにありますが、まずは、なぜこのような潮流が生まれたのかを4つのポイントで解説します。
<ポイント1> 経済のサービス化と人材価値の向上
日本でもGDPの約7割がサービス産業に由来する経済となっていますが、欧米でも同様にサービス産業にシフトしています。製造業がSaaS型のサービスを提供するような事例も当たり前になりました。多くの企業が「サービス」を提供する時代において、最も重要な価値は「人材」によって生み出される体験価値です。この経済のサービス化という産業構造の変化により、人が持つスキルが果たす役割がますます高まっています。
<ポイント2>企業の成長要因の変化
経済のサービス化以前の企業成長の主役は「工場」だったといえるかもしれません。投資家は工場という固定資産の規模やその回転率といった財務会計的な観点から企業の状況を知ることはもちろん、極端に言えば今後の成長をある程度予測することができました。一方、現在のようなVUCAの時代、かつサービス経済の世界においては工場や固定資産だけでは企業の将来的な成長を予測するのは難しくなりました。どのようなスキルを持った人材がいるのかという人材の質や量、そして企業文化を加味することが企業の価値向上を予測する要因として重要になってきたのです。