ADKマーケティング・ソリューションズがブレインパッドと挑むIPビジネス変革

ADKマーケティング・ソリューションズ(以下、ADK MS)とブレインパッドは、属人的になりがちなIP(知的財産)ビジネスの「感覚的判断」を、AIとデータで可視化・分析し再現可能にする「共創Labo」を展開している。生成AIやデータ分析を活用し、マーケティング施策の再現性向上とファン理解の深化に取り組む。

6月12日に開かれた「宣伝会議マーケティングサミット2025」で、ADK MS の竹下伸哉氏とブレインパッドの鵜飼武志氏が登壇。両社が抱えるIPビジネスの課題や、データ活用による新たな可能性について語った。

IPビジネスにおける「感覚」を「ロジック」に

ADKグループはアニメ創成期である1960年初頭から、IP(知的財産)ビジネスを業界内で牽引してきたが、その現場では個人の「経験」や「勘」に頼る場面が多く、再現性に欠けるという課題を抱えていた。竹下氏は、「属人的なノウハウに依存している現状では、ビジネスをスケールさせにくい」と語る。

ADKマーケティング・ソリューションズ 統括執行役員 ソリューション統括 竹下伸哉 氏

具体的な事例として、映画の興行収入が目標に達しない場合でも、その要因が明確に特定できず、改善につながりにくいという現状や、コロナ禍以降変化した書籍市場において紙媒体の需要予測が難しくなり、販売機会を逃すといったケースを挙げた。こうした課題の背景には、判断が体系化されたロジックではなく、過去の経験や主観的な感覚に基づいて行われているという構造的な問題がある。

また、IPビジネスの根幹をなす「ファン理解」についても、量的・質的に十分とはいえず、文化、価値観、消費行動などが異なるグローバル市場に対応する戦略を立てる上で、依然として情報の粒度や深さが不足している。

続いてブレインパッドの鵜飼氏は日本企業全体のDXの現状について、「約8割の企業がDXの取り組みを進めてはいるものの、実際にはデータやAIの活用が進まず、他国に比べて出遅れている」と指摘する。特にIP・コンテンツ業界では「データはあるが使いこなせない」「導入したAIの精度 が低くて現場に浸透しない」といった課題が顕在化しており、実務で活かされる機会が限定的だという。

ブレインパッド 上席執行役員 エンタープライズ担当 兼 フィナンシャルインダストリー担当(2025年7月1日より現職) 鵜飼 武志 氏

こうした状況を打開するために鵜飼氏が紹介したのが、「顧客の声」のデータ活用だ。たとえば、アンケートやカスタマーサポートの記録といった、これまで定性的に扱われていた情報を、AIに処理させることで定量的な分析が可能になる。AIは「どの部署への問い合わせか」「トピックの内容」「カスタマージャーニーのどこに該当するか」「ポジティブかネガティブか」といった複数の軸で分類し、これにより従来では把握が難しかった潜在的なニーズの可視化が実現される。

両社で取り組む“データ×感性”の実証実験

こうした両社の問題意識や強みを共有する形で始まったのが、共創型のプロジェクト「共創Labo」だ。ADK MSが持つ広告やコンテンツ領域でのマーケティング知見と、ブレインパッドが持つデータサイエンス技術やDX領域の専門人材を掛け合わせることで、直感に頼っていた判断や施策の背景を可視化・分析し、新たな付加価値を創出することを目指している。

この共創Laboでは、現在2つの具体的なプロジェクトが進行中だ。1つ目は「倫理チェックAIエージェント」。広告や映像、Webサイトなどのクリエイティブ制作物において、宗教的・文化的な背景を踏まえた倫理的リスクをAIが自動で検知するというもの。従来は人が目視や経験に基づいて行っていた作業を効率化し、品質を保ちながら作業負荷を軽減することが狙いだ。今後は国や地域による感性や価値観の違いにも対応できるよう、応用範囲を広げていくという。

2つ目は、より高度な顧客理解を実現するペルソナ生成ツール「エモグラ」。ADK MSがこれまで蓄積してきた幅広い業界やクライアントデータと、ブレインパッドの数理モデルやAI技術を用いて得られる多様なデータからの解釈を組み合わせ 、AIでより精緻な顧客像を描くという試みだ。

「完璧なID統合には膨大な工数とコストがかかります。そのため私たちは、まずはAIに“ある程度の精度”で解釈させるというアプローチを取っています」と鵜飼氏。たとえば、インタビュー動画やカスタマーサポートの記録といった人の感情が多く含まれる情報も、AIが一定の枠組みで解釈・分類することで、そこから有益な示唆を得られるケースもある。

「もちろんAIの出力が常に正しいとは限りませんが、まず使ってみて、そこから人の手で修正・改善していくという流れが重要です。完璧を追い求めるのではなく、活用しながら精度を高めていくことが、我々が共創Laboで目指すAI活用のスタンスです 」(鵜飼氏)

AI活用がIP業界の構造的課題に与える影響

こうした取り組みは、IPビジネスの構造的な課題にも波及効果を与えている。竹下氏は冒頭のIPビジネスにおける課題に触れながら「個人が持つ暗黙知を“汎用化”し、誰もが活用できるようにする仕組みが求められています」と話す。

AIやデータを活用することで、これまで感覚的だった意思決定が数値で裏付けされるようになり、成功・失敗の要因を客観的に把握できるようになる。結果として、施策の再現性が高まり、組織としてのマーケティング精度が向上するという。

鵜飼氏も、「AIは人間の代わりに判断するのではなく、人間が判断するために必要な情報を迅速かつ的確に提示してくれるもの。人材不足が進む中、AIが業務の一部を代替し、人がより創造的な業務に集中できる環境を整えることが重要です」と補足する。

最後に、両氏は企業間の共創を成功させるためには「失敗を許容する文化」と「共に学び合う姿勢」が欠かせないと強調するほか、今後の展望として、海外市場におけるファンの心理や文化的感性の解析にも挑みたいという意欲を示した。

お問い合わせ

株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ

URL:https://www.adkms.jp/

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