何をクリエイティブするのか?それが問題だ。(文・高木新平)

広告は単なる“表現職能”にとどまらず、経営と共にブランドの未来を描く時代へ。NEWPEACE CEOの高木新平氏が、従来のクリエイターという肩書きや役割の限界を見つめ直し、新たなクリエイティブのあり方を提言。広告の外側に拡張する可能性について語ります。

業界の外から見た「広告クリエイター」

僕は博報堂に入ったものの1年ほどで辞めてしまった。だから宣伝会議のような業界の講座にもアワードにもまったく縁なく生きてきた。仕事でカンヌ行く、とか言ってみたかった。

僕は、23歳で起業家の家入一真さんに弟子入りし、スタートアップの世界で育ってきた。2011年当時はまだスタートアップなんて言葉はなく、起業家は社会的にいかがわしい存在だった。しかしここから未来が生まれると感じた。

毎日のように何人もの起業家の話を聞いた。それらをビジョンとして言語化し、表現に変え、その会社の物語をつくっていく。それを10年続けてきて、気がつけば経営者の参謀の道を歩んでいた。

そんな業界の外にいる人間だからこそ、あえて客観的にみると、「広告クリエイター」という呼称が、クリエイティブディレクションという仕事の可能性を狭めていると感じる時がある。

“つくる”だけじゃ終われない時代

クリエイターだからビジネスのことは考えなくていい。表現はやるけど成果の責任は取らなくていい。そんな免罪符になっていると感じることがある。

逆にプロデューサー職の人が「クリエイティブ」を特別視しすぎる傾向も良くない。「私クリエイターじゃないんで」みたいな発言をよく聞くけど、代理店にいる人はみんなアーティストではなくビジネスパーソンなわけで、本来そんな聖域はないはずだ。

確かに、マスメディアのように媒体の限られていた時代は、キャッチーなコピーを書く、印象的なグラフィックをデザインする、面白いCMを企画することがクリエイティブな仕事とされてきた。その媒体という制約の中で、表現をつくる職人的な仕事だったと思う。

しかし、それはいつの時代の話だ、と思う。圧倒的にSNSが広まり、発信の出力先は無限に増え続けている。ヒトモノカネの売り方も調達も多面化し、マーケティングとPRの境界も曖昧になった。こうした状況で求められるクリエイティブディレクターの役割は、伝統工芸職人ではない。ビジネスの未来を描くことそのものだ。

指揮者としての視点を持つ

宣伝部と話してると広告の話になっちゃうのかもしれないが、経営者と話してると、会社やブランドが社会の中でどんな存在を目指すか、今どんなコミュニケーションをするべきか。手段ではなく大きな問いが降ってくる。それはつまり、戦略そのものだ。

音楽にたとえると分かりやすいかもしれない。各分野のクリエイターたちが、デザイン、コピー、映像、編集、UXなどの、それぞれの“楽器”で最高の「音」を出す。これはあくまでプロダクションの領域。

一方でクリエイティブディレクションは「指揮」である。指揮者は自ら楽器を奏でるのではなく、各分野のプロを束ねながら、なぜその曲を、誰のために、どの順序で鳴らすかを決めて、オーケストレーションするのが役割だ。

指揮者が観客と興行の双方に高い価値をもたらすことで評価されるように、我々の仕事も企業価値や事業が伸びたかどうかで評価される。顧客と向き合い、数字と対峙し、社会の変化と同期できるか。我々がやるべきことは、表現を磨くことより、どこを磨けば成長が起きるかを見極め、あらゆる関係者にドライブしていくことだ。

これは見方を変えると、広告代理店の本質だった「メディアのエージェント」から脱皮して、「ブランドのエージェント」として進化できるかが問われているとも言える。つまり仕事をもらう側ではなく、仕事をつくる側になった、ということだ。

広告を超える覚悟が必要

だから僕が経営するNEWPEACEでは「ブランドディレクター」という肩書きを名乗っている。宣伝会議では分かりやすくクリエイティブディレクターとしているが、僕はプロデューサーの職能と溶けるのは必然だと思う。なぜなら経営者との対話こそが価値の本質になっていくから。

その先駆けは、佐藤可士和さんだったように思う。ユニクロや楽天、セブンイレブンなどの経営者と対峙し、クリエイティブな発想で大局観のある解を出す。その未来像をイメージとして浸透・定着させるために、言語表現や視覚表現を駆使する。手段は後である。

あの人は特別だと言う人が多いがそんなことないと思う。時代が異なるのでよく知らないが、岡康道さんや高松聡さんが営業出身だったのは偶然ではないはず。自らが対峙し、解を出す。だからバイネームでの仕事になった。

この前のクリエイター・オブ・ザ・イヤーを見てもこの潮流を確信した。受賞した博報堂の宮永充晃さんがドンキホーテとやっている仕事は、広告ではなく経営課題を解決するディレクションである。話を聞く限り、やはり自ら顧客と対峙し、説明責任を負っている。

これからの広告代理店は発注を待つのではなく、ブランドとともに中長期の地図を描く伴走者になる。その中で、クリエイティブディレクションの価値や可能性も大きく変わっていく。「広告クリエイター」などという過去の発想を捨てて、ビジネスの最前線に立つ覚悟を持った人から新しい仕事を実現していくだろう。すべての人にチャンスがある楽しい時代だ。

<広告でもコンサルでもない 経営者の参謀になるためのクリエイティブディレクター超実践講座 高木新平クラス>

開講日:2025年9月24日(水)19:00~21:00
講義回数:6回
開催形式:教室開催(宣伝会議表参道セミナールーム)
詳細・お申込:※現在、キャンセル待ちです。

8月19日(火)23:59まで「キャンセル待ち」を受け付けます。宣伝会議事務局にて抽選を行い、26日(火)までに事務局から、受講可否の結果をメールにてご連絡を差し上げます。こちらからご登録ください。
※抽選形式のため、原則として受講が確定した方のキャンセルは承ることができません。あらかじめご了承ください。

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高木新平

NEWPEACE
CEO / 富山県クリエイティブディレクター / 株式会社SHONAI 取締役

1987年富山県射水市生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社博報堂に入社。東日本大震災を機に退社し、コンセプト型シェアハウス「リバ邸」を立ち上げ、ムーブメントを牽引。 2014年にNEWPEACE Inc.を創業。未来の価値観や市場をつくる「ビジョニング」を軸に、企業や地域のブランド戦略・ビジョン策定に数多く携わる。 2021年からは地元・富山県の成長戦略会議委員に就任し、ウェルビーイングを軸とした新たな地域モデルを実装。また県のクリエイティブディレクターとなり、すし県構想「寿司といえば富山」をリード。2024年、外出支出額全国1位を実現。 2025年、株式会社SHONAI取締役に就任。地方創生の答えとして、地方の成長産業とグローバル市場の接続に挑む。その他、(株)ワンキャリア社外取締役。三児の父。緑髪は稲穂をイメージ。

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