FCB Chicagoに聞く 映画を変える新たな字幕「Caption with Intention」はどう生まれた?

「今の字幕では、感情や豊かな物語性が伝わりきらない」そんな現状に疑問を抱いたデザイナーの声から、FCBは映画の字幕を進化させる挑戦を始めた。「アクセシビリティは贅沢品ではなく、基本的な権利」。アカデミー賞での功労賞受賞を経て映画の未来を変え始めた、革新的なプロジェクトの舞台裏を企画をリードしたFCB Chicago のBruno Mazzottiさんに聞いた(本記事は『ブレーン』2025年9月号「世界のクリエイティブ AIの先に問われる信頼とリアリティ」特集からの抜粋記事です)。
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Bruno Mazzotti さん

FCB Chicago エグゼクティブクリエイティブディレクター

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【概要】

FCB Chicagoが、シカゴ聴覚協会と聴覚障害者コミュニティ、Rakish Entertainmentとのコラボレーションで実施した「Caption with
Intention」は、映画の「字幕」を再設計したプロジェクト。映画制作の現場ではさまざまな変革が起こってきたが、字幕だけは情報伝達に特化した当初の形式のまま取り残されていた。そこで登場人物の感情や緊張感を可視化するために、字幕に動きや強弱をつけ、色分けすることで話者を識別する新たなスタイルを確立。聴覚障害者にも情緒が伝わる体験を実現し、196言語対応のオープンソースとして世界中のスタジオで採用が進んでいる。アカデミー賞の科学技術部門で功労賞を受賞した。
※Cannes Lions2025では、Brand Experience & Activation 部門・Design 部門・Digital Craft部門グランプリ、Titanium Lionほか各賞を受賞。

「アクセシビリティは後回しにされがち」

━━着想のきっかけを教えてください。

このアイデアを最初に提案したのは、難聴のあるデザイナー So A Ryuさん(当時FCB Chicago)でした。彼女は、映画やテレビ番組の従来の字幕は、感情や豊かな物語性を十分に伝えられていないと感じていたそうです。それを聞いたとき、私も強く共感をして。私自身はCODA(聴覚障害がある親をもつ子ども)として育ち、幼い頃からほとんどの番組を字幕付きで見てきたんです。実際に聞こえる音声に比べて、字幕が不正確だったり不完全だったりすることにいつも違和感を持っていました。字幕が単に言葉だけを写して、感情を伝えていないのはもったいないと思ったんです。その気付きが、字幕をもっと意図がこもった豊かなストーリーテリングのツールとして再構築するための原動力になりました。

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「Caption with Intention」の実装イメージ。

━━FCBとして、なぜこの課題に取り組むべきだと考えたのでしょうか。

多くの場合、クリエイティブ業界ではアクセシビリティが後回しにされがちです。ただFCBとしては、第一にアクセシビリティを考えるべきだと信じています。振り返れば、全世界で数億人もの人が字幕に頼っているにもかかわらず、現在の字幕は数十年もの間、見た目も機能もほとんど変わっていませんでした。この課題に今取り組むことは、長年放置されてきた文化的・感情的なギャップを埋める、本当に意義深いチャレンジだと感じたんです。
ゴールに据えたのは、単なる技術革新ではなく、映画が誰にとっても本質的な意味で、もっとアクセスしやすいものになること。聴覚障害のある人や、その近しい人々などの個人的な体験をもとにしたクリエイティブな声がプロジェクトに加わったことで、よりパーソナルなものになったと思います。

当事者との連携が鍵

━━デザインシステムのコンセプトは。

字幕は、世界最大級のインクルージョンツールのひとつです。ほぼ全てのテレビやストリーミングで利用でき、何十億人もの人々に届いています。しかし、その規模や影響力にもかかわらず、エンタメ業界の進化からは取り残されていました。

そこで私たちは、聴覚障害をもつ人々のコミュニティと共に次の3つの課題を特定しました。「セリフと字幕のタイミングがずれる」「声のトーンや感情が伝わらない」「誰が話しているかわからない」というものです。そしてそれぞれを解決するために、デザインシステムでは次の3つを軸としました。

①同期性:パンチライン(印象的なセリフや映像表現)やジャンプスケア(突然大きな音や恐ろしい映像を出すことで驚かせる演出)のタイミングを正確に再現する、動的なテキストアニメーション。
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②声のトーン:声の大きさや調子に応じて字幕のサイズや太さ、動きを変化させること。
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③話者の識別:登場人物ごとに色分けすることで、複数の話者がいても、誰が話しているか一目でわかること。
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たとえば「声のトーン」に関しては、字幕から「声の大小」「高低」「(声のトーンが)温かいか・冷たいか」といった繊細な情報も伝えられます。

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大きな声や音は大きく背の高い書体で表現され、小さな声や音は小さく背の低い書体で表示される。セリフは『摩天楼を夢みて』(1992年)より。

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声の音程も字幕で伝えることが可能。低い声や音は、より太く横幅が引き延ばされた書体で表示される。高音域の声や音は、より軽いウエイトのコンデンスド書体で表示される。セリフは『ファインディング・ニモ』(2003年)より。

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声の温かさ・冷たさなどの「響き」も表現。ふくよかで温かい印象を与える、低い倍音が豊かな声は、横幅が広い書体で。より鋭い印象を与える、高い倍音が支配的な声は、コンデンスド書体で表示される。

━━開発過程での鍵は、当時者との連携。特に印象的だったエピソードは。

シカゴ聴覚協会とパートナーシップを組んだことです。可能な限りコミュニティを巻き込むため、パネルメンバーを組織しました。さまざまな字幕のテスト映像を見てもらい、フォントや色、サイズ、アニメーションなどを検証していきました。特に印象的だったのは・・・以降は『ブレーン』2025年9月号誌面もしくはデジタル版記事(※ご購読いただく必要があります)でご覧いただけます。

以降のトピックス
・印象的だった、あの作品でのテスト。
・プロジェクトを世界中にどう広げていった?
・今後の「Caption with Intention」について。

8月1日発売!
月刊『ブレーン』2025年9月号
「世界のクリエイティブ AIの先に問われる信頼とリアリティ」

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