大丸東京店で展開する複合型体験ストア
小売事業の接点は、ほとんどリアルな「店頭」だった大丸松坂屋百貨店は、コロナ渦を経験し、タッチポイントのオンライン化やオンラインビジネスを本格化。島袋氏は、大丸松坂屋百貨店がブランドの「没入感」により顧客のエンゲージメントを向上させる体験価値向上へのアプローチとして取り組む、3つのDX事業を取り上げた。
複合型体験ストア「明日見世(あすみせ)」は、主にオンラインで販売しているブランドや購入に体験が必要な高付加価値型の商品において、店頭で試したり体験したりすることを通して、ブランドの世界観への「没入体験」を提供している。
店内にはカメラを設置し、性別・年齢・来店数・滞在時間などをAIで自動解析し、ブランドごとに定量的データを収集。(カメラから取得した映像は、お客様個人を特定できない特徴を示す推定データに変換され、適切な方法にて破棄いたします。推定データには個人を特定可能な情報は含んでおりません。)さらに、専門のアンバサダーによる定性フィードバックを加えた多角的なマーケティングデータを出店ブランドに提供している。小売部門において店頭接客を大切にし続けてきた大丸松坂屋百貨店らしい、デジタルとリアルが融合した戦略だ。
デジタル上の「没入」をクリエイタービジネスで実現
「おかたべ🍰OKATABE」は、大丸松坂屋百貨店の社員が運用するショート動画アカウント。TikTokフォロワー数は22万超え、YouTubeチャンネル登録者数は36万人を超えており、エンゲージメントが高い動画を数多く発信している。「音だけの非言語で構成された動画は生活者の『没入感』を高めるコンテンツとして支持されている」と島袋氏。「おかたべ🍰 OKATABE」のエンゲージメント実績から、現在は様々な法人向けの動画制作受託・広告パッケージ提供や他企業、クリエイターとのタイアップなどの収益事業化に繋げられており、DX事業の発展事例として紹介した。
3つ目に取り上げたのは「メタバース」事業。「呉服屋から始まり400年の歴史がある大丸松坂屋百貨店は、生活者の暮らしをより豊かにする提案をしてきた長年のノウハウを、メタバースでも活用できると確信して事業を進めてきた」と島袋氏は述べる。未知の可能性に挑戦するクリエイターを支援し、2023年には百貨店業界で初めて、メタバース空間で活用する「3Dアバター」の販売を開始。コラボキャンペーンの実施や、リアル店舗の空間演出のプロである百貨店のメンバーが、VRChat内でのワールド制作をプロデュースするなど事業範囲を広げている。メタバースへの没入が、結果としてブランドの「没入」を高め、顧客の拡張につながったと述べた。
「バーチャル大阪駅」を活用したUGC事例
八重樫氏は、リアルとバーチャルを組み合わせることによってUGCが促進される理由や、独自の強みを活かしたUGC戦略の仕組みについて紹介した。JR西日本グループでは、2022年より西日本最大の駅「大阪駅」をバーチャル上に再現・拡張した「バーチャル大阪駅」を展開。同グループはこれまで、個別のユーザーが能動的に動いて自社サービスを発信してくれるUGCマーケティングに課題を抱えていた。そんな中、「バーチャル大阪駅の発足をきっかけにUGC促進の道筋が開けた」と八重樫氏は語る。
「バーチャル大阪駅」は大阪駅を再現・拡張したメタバース空間で、誰でもスマホからアクセスが可能だ。大阪駅が持つ機能性や社会性を活かして、バーチャル上でビジネスフィールド化するために生まれた取り組みで、「バーチャル大阪駅」を利用するユーザーを巻き込んだ施策をいくつも展開している。八重樫氏は中でも、ユーザーがJR西日本で扱う商品のCMを自主製作する「CM選手権」施策を、UGCの促進事例として挙げた。優秀な作品はリアルの大阪駅に設置しているビジョンで放映される、リアルとバーチャルが連動する仕組みだ。
「JR西日本のUGCの取り組みは、3つの要素で成り立っている」と八重樫氏。1つ目は、自己表現が好きな人が多く集まっていること。2つ目は、自己表現が好きな人たちのモチベーションになるリアルアセットやインセンティブがあること。この関係性の中に、お題を提示する要素が組み合わされることが3つ目。同施策は、CMを作るというお題に対して、ユーザーがリアルでの放映を目指し、「自身の活躍の場が得られる」ということがモチベーション向上につながった。「ユーザーが能動的に動いてくれることがUGC促進において特に重要」と八重樫氏は述べる。
独自のUGC戦略を可能にするJR西日本グループの強み
さらに八重樫氏は、独自のUGC戦略を活性化できている理由について、「バーチャルを利用するユーザーはリアルの世界で生活している人であり、バーチャルだけでなくリアルの世界にも活躍の場を求めている。その熱量をJR西日本グループは把握しており、バーチャルユーザーのリアル活動を後押しできるモニターやビジョンを駅構内や関連施設に数多く備える大阪駅の公益性が、ユーザーのニーズを叶えられる唯一無二の場所であり、強みである」と語った。また、UGCをプロモーションだけでなく、社会課題解決に応用することも計画中だと話し、今後のさらなる事業展開を期待させる内容で締めくくった。

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