新東通信はなぜ「AIドリブン宣言」を掲げたのか 新進気鋭の広告会社が探る新たな勝ち筋

新東通信(本社:東京都中央区、愛知県名古屋市)は9月1日、広告会社として初となる「AIドリブン宣言」を掲げた。自社の業務改善だけでなく、その知見を生かした新規事業の創造につなげるためのロードマップを作成。第1弾としてAIを積極的に活用できる人材を育成するため、全社員の「AI活用レベル」の可視化を行った。谷鉃也社長にAI活用に向けた施策について話を聞いた。

AI活用は中小企業の「逆転の一手」

AIがビジネスのあらゆるプロセスを変えようとしています。広告業界では大手が先陣を切ってAIに投資していますが、当社のような中小規模の会社にこそ大きなチャンスがあると考えています。

ChatGPTは公開わずか2カ月でユーザー数が1億人に到達しました。このスピードはFacebookの27倍です。これは、これまでにないスピードで、加速度的に動いている世界があるということを示しています。しかし、その一方で、日本ではAI利用意向がある企業は50%程度にとどまり、中小企業に限ればさらに低いのが現状です。国家間だけでなく、地域、年代、企業規模、役職といった多方面でAI格差が存在しています。

谷鉃也(たに・てつや)氏

谷鉃也(たに・てつや)氏/愛知県出身。青山学院大学、ロンドン大学を経て2001年に新東通信入社、ダイレクトマーケティングに傾倒して通販広告事業を立ち上げ、0から50億円規模に成長させる。2015年、経営不振が続いた総合PR会社共同ピーアールの再建のために同社代表取締役社長に就任。共同ピーアール、及びインフルエンサーマーケティング会社VAZの事業再生を果たす。また、10社を超えるM&Aを手掛けて経営に従事。2024年、新東通信代表取締役社長に復帰。生成AIの可能性に目覚め、生成AIの導入支援やコンサルティング、事業開発に精力的に取り組んでいる。

日本全体でAI活用が遅れているからこそ、中小企業も今から取り組めばまだ間に合います。大企業も必ずしも活用が進んでいるわけではありません。ガバナンスの意識からChatGPTなどの利用を禁止している企業もあります。一律で同じシステムを導入する傾向があり、社員個人が自ら活用法を考える習慣が根づきにくいとも聞きます。分業化が進んでいるため、AIの専門部隊があっても現場レベルでは十分に活用できていないことも少なくないのです。

こうした状況を踏まえると、AI活用は中小企業にとっての「逆転の一手」になり得ると考えています。

全社員のAI活用レベルを可視化

新東通信は昨年末からAIに力を入れ始めました。それまでも取り組んではいましたが、DXと同じスピード感では追いつけないと考え、やり方を大きく変えました。

AI活用のロードマップとして、まず着手したのは「人材育成」です。全社員と面談を行ったほか、検定試験を実施し、社員ごとのAI活用レベルを判定。どれだけAIを使いこなせているかを可視化するため、1~10段階の「AIレベル」を設定しました。レベル4は中級で汎用AIを使いこなせるレベル、レベル5はAIボットの作成ができるレベル、レベル6は業務の自動化を自ら設計できるレベルです。

AIを使いこなしているのは、若い社員が多い傾向にあります。特に30代は、実務経験を積んでいながら頭の柔軟さもあり、習得が早いですね。日本人全体の平均はレベル3程度と見ていますが、当社では約300人のうち210人がレベル4以上、そのうち100人がレベル5以上でした。まずまずの結果だと考えていますが、AIは日々進化しているため、いま使いこなせている社員も進歩を続けなければなりません。レベル4が業務改善の最低条件なので、全社員をレベル5に引き上げていきたいと考えています。

今年4月には「AI推進準備室」を新設し、外部の協力を得てAI活用に向けたカリキュラムを構築しました。AI活用が苦手な社員の立場に立った内容にしています。次のステップは「業務改善」。育成によってAIを使えるようになった社員と一緒に進めており、業務ごとの要望に合わせて業務改善ツールの作成を一つずつ進めています。

社員が主導して業務にAIを取り入れる

景表法や薬事法に照らし合わせたチェック機能のほか、通販用バナーを自動生成する仕組みをプロトタイプとして開発し、現在は検証段階にあります。こうした取り組みを通じて少しずつ自動化や省力化を進めているところです。現場の社員が主体となって改善を進めることは、人材育成そのものにもつながります。学んだ知識を実際の業務に落とし込み、成果を出していくことができるからです。

外部エンジニアと組んで商品開発にも取り組んでいます。通販バナーやコンテンツの自動生成に加え、ポータルサイトの記事制作では、指定した過去記事の傾向を参考に新しい記事を生成する仕組みも導入しています。

制作現場を中心にAI活用による効率化が進む

制作現場を中心にAI活用による効率化が進む

当社は『エステティック通信』という雑誌を発行しており、表紙の制作にもAIを活用しています。もともと発行元の債務超過によって事業譲渡された雑誌でしたが、AI活用も含めた業務効率化によって1年で黒字化しました。将来的には制作プロセスの自動化をさらに進めることで、課題を抱える全国の雑誌社やメディアのためのプロトタイプにしていきたいと考えています。

「事業創造」に向けロードマップを描く

最終的に実施するのが「事業創造」。その第1弾として、企業向けに有料セミナーを展開しています。AI活用に関するセミナーは多いが、広告会社に特化したものはあまり聞いたことがありません。当社では広告会社として蓄積した知見を共有しており、顧客からの反応も良好です。

人材育成、業務改善の次に目指すのは「事業創造」

人材育成、業務改善の次に目指すのは「事業創造」

AIによる事業開発コンセプトを「VISION X」としています。「X(エックス)」には、未来に向けた夢や可能性を示す「X」という意味があり、また、掛け合わせるという「X(クロス)」との意味も込めています。アイデアと課題、人脈と企画を掛け合わせて新しいものを生み出すという意図があります。

事業開発コンセプト「VISION X」

事業開発コンセプト「VISION X」

そこからさらに発展させ、会議で話している内容を、自動的にイラストや絵、企画書などの形で、その場でビジュアライズして、次の会議までのアクションを提案してくれる『ボイススケッチ』という商品を開発中です。加えて、口頭で話した内容を整理するだけでなく、自分の名刺、日記、議事録、経営データなどを登録し、それを顧客の課題と組み合わせることで、最適なアイデアやマッチングを導き出す「スマートネットワーク」というサービスの開発も進めているところです。ChatGPTと異なりデータを蓄積できる点が強み。資産(アセット)として蓄えやすく、経営者やビジネスマンのポテンシャルを広げることができます。

私たちは、会社の行動指針に「何かおもろいことないか」を掲げています。AI活用も同様の姿勢で、自由な発想で大胆に進めていきたいですね。

AIドリブン経営においては、経営者自身がAIを使いこなすことが重要です。私はセミナーを開催して講師を務めるだけでなく、自ら受講することもあります。オリジナルAIの仕組みを中小企業向けに手頃な価格で提供していくことを考えています。顧客が保有するデータの解析も必要となるため、従来以上に深い関係を築けるでしょう。

AIの流行によって業界の姿は大きく変わりつつあります。将来的には作業の大部分がAIに代替されると考えていますが、その目的は人間が人間らしい仕事をするため。人にしかできない仕事は数多く存在します。会社も単純に売上を追うだけではなく、バリューを持たせるための戦略が欠かせません。AIに代替される環境の中でリソース配分を見直し、例えば顧客と向き合う時間を増やすなどやるべきことはいくらでもあるはずです。

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お問い合わせ

株式会社新東通信 コーポレート本部 

TEL:03-3538-8011
URL:https://www.shinto-tsushin.co.jp/


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