上場企業と投資家との対話のツールは、ここ十数年で進化を遂げてきた。中でも同社が得意とする統合報告書は、経営者による中長期展望を踏まえた価値創造力を発信する重要な手段のひとつと位置づけられている。企業の価値創造ストーリーを伝える統合報告書の今と、同社の構想について聞いた。
「統合思考」の浸透で進化する統合報告書
統合報告書とは、企業が財務情報と非財務情報を統合的に開示し、それらの要素を包括して企業の将来ビジョンやそれを踏まえた長期的な価値創造のストーリーを伝える報告書のこと。企業の概況や過去情報を中心とする有価証券報告書とは別に、中長期の成長性や持続性を伝える媒体として投資家向けに作成される。経済産業省は、企業の価値向上に資するとして企業と投資家の対話を推奨しているが、統合報告書はそうした対話の質向上を促す役割を持つ。
国際統合報告評議会(IIRC、現IFRS財団)が2013年、「統合報告書」のガイドラインとして「国際統合報告フレームワーク」を公表して以降、日本企業でも統合報告書の作成が活発化してきた。
統合報告書が作成され始めた当初は、1年間の財務報告と経営者によるメッセージをまとめたアニュアルレポートに、社会や環境への貢献活動をまとめたCSR報告書を合わせたものが提出されていた。そこから十数年を経て、「経営者に統合思考が浸透してきたことで、統合報告書はずいぶん進化しました」と、ウィルズ常務取締役の山本章代氏は語る。
ウィルズ 常務取締役 コーポレートコミュニケーション本部長 山本章代 氏
統合思考とは、企業のさまざまな資本を統合的に捉え、短期から中長期までの時間軸でどのように価値を創造していくのかを能動的に考える思考法のことだ。こうした思考法をもって統合報告書を作成することで、投資家はもとより、従業員や様々なステークホルダーとの対話が進み、社内コミュニケーションの活発化や部門間の壁の解消、そして価値創造ストーリーのさらなる磨き上げができるようになる。
「当社は日本で統合報告書が作成され始めた頃からご支援しているので、統合報告書の進化を目の当たりにしてきました。特に日本企業が作成する統合報告書の進化は目覚ましく、知的資本の開示などは世界的にも優れていると評価されるなど、投資家ニーズに応じて情報の充実が図られています。ただ、情報のつながりやストーリー性という点で、今後もう一段階の進化が必要だと考えています」(山本氏)
2027年から、有価証券報告書にサステナビリティ情報の開示が義務付けられるが、他の法定開示資料にも掲載される情報を一つにまとめようという動きがあり、情報の網羅性は高まる見通しとなっている。一方で、長期にわたる価値創造ストーリーを伝える媒体として、統合報告書の役割はより一層重視されるようになるだろうというのが、ウィルズの考えだ。
企業と投資家の対話を促す「IR-navi」
「投資家は本来、企業価値を一緒に創っていくパートナー。経営の質を高めるための対話相手と位置づけるべきです」と、経営企画室ディレクターの伊藤裕樹氏は指摘する。かつて企業にとって投資家は、部外者だという意識が強かったという。2014年と15年に企業と機関投資家の対話を促すことを目的とした「コーポレートガバナンス・コード」と「スチュワードシップ・コード」が制定され、その意識は薄れたといえるが、未だに投資家は自社の株式に投資をしてくれるクライアント、すなわちお客様であるという認識は拭えていない。
ウィルズ コーポレート本部経営企画室ディレクター 伊藤裕樹 氏
統合報告書は、そうした企業と投資家の対話を促す役割を果たす。ウィルズでは、統合報告書をはじめとする情報の流通プラットフォームとして、「IR-navi」という仕組みを提供している。現在は、企業から投資家へ情報発信を行う役割がメインだが、企業と投資家が双方向に対話できるツールとして進化させようとしている。
現在の「IR-navi」は、プロフィールを登録している投資家に対し、上場企業がメールで情報配信できる機能がメイン。投資家のプロフィールには、運用方針や資金の性格、望んでいるパフォーマンスなどのデータが入っており、企業は最適な投資家を選んでメール配信ができる。
投資家の属性などによる情報の出し分けにも工夫の余地は大きいという。「例えば、企業としては大口の投資家に手厚く様々な情報を届けたいと考えるかもしれませんが、投資家がそれを望んでいるとは限りません。また逆に関心を持った投資家が情報を取りに行っても、求める情報に行き当たらないケースも考えられます。そうした企業と投資家とのギャップや不便を解消し、統合報告書に加えてプレスリリースや調査会社が作成するアナリストレポートなどの様々な情報を閲覧し、実際に企業にコンタクトを取れるような仕組みにしたい」(伊藤氏)
企業のストーリーを描く「統合報告」へ
今年3月には、その第1弾として「IR-navi」に企業と投資家の面談調整機能を実装。さらに、これから第2弾として国内外の投資家が閲覧できるコンテンツの拡充、第3弾として企業と投資家の対話内容をAIで分析し、活用できるようにする機能の実装を目指している。
「IR-navi」のサービス拡充へ着手
「そうした取り組みとともに、『IR-navi』に掲載するコンテンツの作成支援を行っていきます。『IR-navi』を利用する投資家が増えれば、投資家のネットワークを拡充でき、投資家の意見を踏まえた統合報告書の作成に生かせる。それが、ウィルズの強みです」(伊藤氏)
冊子による統合報告書は年1回の更新が主流だが、オンライン上で随時更新されるような将来像も描いている。「今後、『IR-navi』上ではタイムリーな発信をもとにさらなるストーリーの磨き上げができるようにしたいと考えています」と、CCソリューション部 事業企画グループ長の間宮孝治氏は意気込む。
ウィルズ コーポレートコミュニケーション本部CCソリューション部 事業企画グループ長 間宮孝治 氏
2026年2月には、AIを活用して統合報告書の自動作成や英語版の作成ができる「IR-port」のローンチを予定する。時間的にもコスト的にもリソースが割けない中小企業や、効率良く統合報告書を作成したい大企業への展開を見込んでいる。
「統合報告書には、IRコミュニケーションにとどまらない可能性を感じています。『IR-port』は投資家との対話ツールとして有用であるだけでなく、様々なステークホルダーへタイムリーに情報を届けることで、コーポレートブランディングや従業員へのパーパス浸透にもつなげることができます」(間宮氏)
ウィルズが描く「共創プラットフォーム」のイメージ
ウィルズの経営理念は「MAXIMIZE CORPORATE VALUE」。上場企業と投資家をつなぐことで企業価値を最大化し、それによって投資家の資金提供を促して資本市場も効率化していくことがミッションだ。
「IR-naviやコンテンツ、そのほかウィルズが展開するプラットフォームサービスを組み込んだ共創プラットフォームができあがれば、まさに当社が果たすべきミッションの実現に一歩近づくと思っています」(山本氏)

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