自社の強みを熱心にアピールする提案書が、なぜか評価されない。その原因は、評価者が本当に知りたいこととずれているからかもしれません。行政案件だけで500件以上の実績を持つ株式会社コヨーテコヨーテの今村由美子氏は、行政向け提案書作成の最重要事項は、視点を180度転換した「評価者視点」にあると言います。
本記事では、自社の提案書を単なる「自社の説明書」から、評価者が「点数をつけたくなる、つけざるを得なくなる」ための強力なツールへと変える原則を解説します。
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原則1:提案書の主語を転換
勝てる提案書の第一歩は、根本的なマインドセットの転換から始まります。提案書の主語は「我々(自社)」ではなく、徹頭徹尾「あなた(評価者)」であるべきです。
今村氏は、評価者の心に響くのは「自社が言いたいこと」ではなく、「評価者が知りたいこと、わかること、やりたいこと」だと指摘します。提案書に書くべき内容は、すべてこのフィルターを通して見直す必要があるのです。
例えば、「我々はAというシステムを導入します」と書くのではなく、「あなたの組織が抱えるBという課題を解決するために、Aというシステムが必要です。なぜなら…」というように、常に評価者の文脈に引きつけて語ります。
この転換により、提案書は評価者にとっての“他人事”から、自らのミッションや課題解決に直結する“自分事”へと変わります。評価者は、自分の課題を自分以上に理解し、解決策を提示してくれる提案に対して、自然と高い評価を与えたくなるものです。この「自分事化」こそが、評価者との信頼関係を築き、加点を引き出すための土台となります。
原則2:評価者の「頭の中」を2つのアプローチで分析
ただ、「評価者視点に立つ」と言っても、具体的にどうすれば良いのでしょうか。評価者の「頭の中」を知るためのアプローチ手法として、今村氏は「評価者プロファイリング」と「評価基準の読み解き」の2つを挙げます。
評価者プロファイリングは、提案書を読む相手の人物像を具体的に分析し、戦略を立てる作業です。
- 誰がターゲットか?:最も影響力を持つ決裁者(メインターゲット)は誰か、その周囲の担当者(サブターゲット)は誰か。
- 何に関心があるか?:費用対効果を重視する立場か、政策との整合性を重視する立場か。
- どれくらい知っているか?:その分野の専門家か、それとも専門用語の解説が必要なレベルか。
これらの分析を通じて、「誰に、何を、どのくらいの深さで、どのような言葉で伝えるべきか」という方針が明確になります。この方針をチームで共有することで、提案書全体のトーンや情報量が最適化され、独りよがりな内容になるのを防ぎます。
続いて、評価基準の読み解きです。たとえ評価者の顔が見えなくても、彼らが何を重視するかは「評価基準」や「評価項目」に明記されています。これは、いわば「点数がもらえる場所」を示した地図です。
- 配点を見る:どの項目に高い点数が配分されているかを確認し、そこにリソースを重点的に投入する。
- 項目に答える:提案書の各パートが、「どの評価項目に、どのように答えているのか」を明確に対応させます。
評価基準の一つひとつに丁寧に応えていくことで、評価者は機械的に加点しやすくなるでしょう。これは、評価者に「点数をつけさせる」ための効果的なテクニックです。
原則3:ストーリーのある表現が加点を生む
評価者を理解したら、最後はその理解を具体的な「表現」に落とし込む作業が必要です。提案書は、情報を羅列するだけのドキュメントではありません。評価者の気持ちを醸成し、行動(=加点)を促すためのコミュニケーションツールです。
重要なのは「やることの羅列だけではなく、なぜそれが目的に合致するのか」「どうしてそれが公益に資するのか」というストーリーを、提案全体を通して語ることです。
例えば、「Aを実施します、Bを実施します、Cを実施します」と書くだけでは不十分です。「この事業の目的である『住民の利便性向上』を最大化するために、AとB、そしてCを組み合わせたこの手法が最適です」と表現することで、単なる作業報告から、目的達成のための戦略的な提案へと昇華できます。
この「評価者視点」での表現は、文章の内容だけでなく、情報の構造、図やグラフの見せ方、レイアウトやデザインといった視覚伝達のすべてに適用されるべき原則です。評価者が迷わず、ストレスなく、そして「なるほど」と納得しながら読み進められるように、あらゆる表現を最適化していくことが求められます。
まとめ
行政向け提案の勝敗を分けるのは、技術の優劣や価格の安さだけではありません。いかに評価者の目線に立ち、相手の土俵で的確に価値を伝えられるか。その一点に尽きると言っても過言ではないでしょう。
今回ご紹介した3つの原則を、ぜひ次の提案書作成から意識してみてください。この視点で作り込まれた精度の高い提案書は、コンペを勝ち抜く武器となるだけでなく、事業開始後には関係者間の「合意形成資料」や「業務の指針」としても機能し、プロジェクト全体の成功に貢献します。
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