トヨタ系エージェンシーを経て独立
香田氏は大手広告制作会社を経て、デルフィス(現トヨタ・コニック・プロ)に入社。15年以上にわたり、トヨタやグループ会社のグラフィックからCMまで幅広く手がけ、広告活動の最前線を走ってきた。
「在籍していた広告制作会社では大手広告会社からの案件がほとんど。次第にクライアントと直接向き合って仕事をしたいと思うようになり、デルフィスにアートディレクターとして入りました」と振り返る。ハウスエージェンシーならではの、事業の根幹から関われる経験は大きかったという。
KiiRO1010(キイロテントウ) クリエイティブディレクター/アートディレクター 香田 信 氏
クリエイティブディレクターとして、企業や商品のブランディングに従事。事業設計から商品・サービス開発、広告コミュニケーション、デジタル領域の企画・戦略、さらに各フェーズでのアウトプット制作まで、統合的な視点でクリエイティビティを発揮。大企業で培った知見を基盤に、柔軟かつ実践的なブランディング支援を行っている。
「売上や事業といった上流の情報が常に共有されていて、事業方針の議論からコミュニケーション戦略、広告のアウトプットまで一気通貫で携わる。すべてのフェーズでアイデアを考える経験が、今の自分の基盤となっています」
2024年に独立し、自身の会社を「キイロテントウ」と名づけた。黄色いてんとう虫を意味するこの名前には、香田氏の強い思いが込められている。
「黄色いてんとう虫は“幸せを運ぶ”と言われています。自分自身がその存在になって、関わる企業やブランドを成功に導きたい。その願いを込めました」
この社名に込められた「人を幸せにする」「一緒に成功する」という思いは、香田氏の今後のクリエイティブ活動の方向性とも深く結びついている。
「ランクル」が気づかせてくれた核心
キャリアの中でも大きな転機となったのが、ランドクルーザー(ランクル)のブランディングだ。長年にわたり担当し、厳しい時代から人気を盛り返す現在に至るまで、ブランドを育ててきたキーパーソンの一人だった。
「ランクルは“壊れないから長く乗れる”という実用的な価値が積み重なって、“人生の一台”というロマンにまで育ったクルマです。その価値を広げてきたのは、実は広告よりも長年のオーナーの声や体験でした。SNSやコミュニティでファンが自然に語り始め、その熱が周囲に伝わっていく。その姿を見たとき、“広告だけでブランドは作れない”と強く実感しました」
オーナーの熱がブランドを押し上げていく姿に直面し、香田氏は広告の役割を改めて考えさせられた。
「広告は全部を語り尽くすものじゃないと思うんです。むしろ、ファンが自分の言葉で語りたくなる“余白”を残すことが大切で。僕の役割は、その余白をクリエイティブで仕掛けることだと気づいたんです」
この体験が、現在掲げる「共創型ファンマーケティング」という考え方の原点になっている。
これまで携わった仕事の一例(KiiRO1010.comより抜粋)
ランドクルーザー/ハリアー/ハイエース/トヨタ中古車/トヨタレンタカー/レクサスモータースポーツ/アルバルク東京/名古屋グランパス/トヨタベルブリッツ/トヨタWELCAB/トヨタドッグサークル等
「ファン」との共創でブランドをつくる
ランクルでの経験を通じて、より本質的なクリエイティブのあり方を模索するようになった。目指すのは、単に商品を売るための広告ではなく、ブランドへの深い共感を生み、ファンを育てていく「コミュニケーション設計」だ。
「『広告』という言葉は、今では少し古い響きがあるかもしれません。でも、広告が“好きになるきっかけ”に変われば、そこからブランドの物語は自然に広がっていきます」
そのために重視しているのは、SNSやコミュニティを活用したファン発信の熱量をどう増幅させるかという視点だ。
「ファンが心から好きだと感じたことは、企業が発信するメッセージよりもずっと強い説得力を持っています。だから僕は、ファンが『このブランドのここが好きだ』と語りたくなる、シェアしたくなる余白を、クリエイティブで仕掛けます。その熱が伝播していくことで、ブランドとファンが一緒に未来をつくっていけるんです」
こうした考え方は、媒体を問わず香田氏のクリエイティブの「芯」の部分に貫かれている。
「すでにファンに支えられている商品であれば、話題づくりやコミュニケーションのきっかけを設計しますし、新しい商品の場合は、まずファンを生み出すところから始めます。商品の独自の価値や、なぜそれが魅力的なのかという『芯』の部分を見つけ出し、それを的確にアウトプットする。そこに僕のクリエイティブの役割があると思っています」
ひとりのユーザーとしての感覚を大事にしたい
独立後は、自動車業界にとどまらず、化粧品や不動産、スポーツなど多様な分野へ挑戦の幅を広げている。
「クルマで得た知見を活かして、他の業種やブランドに貢献したいという思いが強いです。ランクルも、もともと自分がユーザーでファンだったことからこそ関わることになりました。だから今も、新しい商品に取り組むときは、必ず自分で体感して、“ユーザーとしての感覚”を忘れないようにしています」
香田氏がクリエイティブの質にこだわる理由は、その効果を信じているからであり、クリエイターとしての信念でもある。単なる広告をつくる会社ではなく、「企業の力になりたい」という思いが根底にある。
「僕が作りたいのは“売る広告”ではなく、“ファンを作る広告”。一瞬の広告を、長く続くブランド体験へとつなげたいんです。だからグラフィック1枚、動画1本からでも気軽に相談してほしい。そのブランドの芯を一緒に見つけ、ファンが自然に語りたくなるようなコミュニケーションを仕掛けていきたいと思っています」

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KiiRO1010
株式会社キイロテントウ
Mail:sk@kiiro1010.com
URL:https://kiiro1010.com

