顧客の行動変化を起こす、イノベーショントライアングル
登壇の3人が属するCX Design Networkには、Project Management、Strategy、Technology、Designと多様な領域のメンバーが40人ほど関わっている。「CX Designは経営デザイナーという考え方を持っており、戦略面・組織面・データ・テクノロジーすべてを遂行しないと顧客体験は実現しない」と岩井氏は話した。
顧客時間 共同CEO/代表取締役 Head of Management 岩井琢磨 氏
イノベーションとは単なる技術革新の話ではなく、これまでにない価値の創造によって「顧客の行動や習慣が変わること」が今の定説だという。顧客の行動が変わるとき、3つのドライバーがあるといわれている。1つが「社会構造」、そして「技術革新」「心理変化」。この3つが連携していることが大事だそうだ。
奥谷氏は、「顧客体験をデザインする際に、顧客行動にはオンラインとオフラインの融合が前提となることを意識する必要がある」と話す。例えばAmazonフレッシュでは、顧客がオンラインとオフラインで買い物したデータを常にシングルIDで捉えているため、充実した提供価値を提供していると事例を挙げた。
顧客時間 共同CEO/代表取締役 Head of Marketing 奥谷孝司 氏
顧客時間とはカスタマー・ジャーニーのことを指す。このプロセスには顧客の購買行動における「選択・購入・使用」という一連の流れがあるが、それぞれをオンとオフで体験分解し、どの時間を短縮でき、どの時間を豊かにできるかを設計することが必要だ。これを1つひとつ人間が行うとかなりの時間を要するが、AIを活用して体験設計を行うというのが今回のワークショップのテーマである。
5年後を想定する3つのドライバーを選定
参加者を4つのグループに分けて、ワークショップが始まった。各グループで仮想のサービスや商品を設定し、先述した3つのドライバー「社会構造」「技術革新」「心理変化」が5年後にどうなっているのか導き出していく。今回はChatGPTを活用し、まずはAIプロンプト例として「あなたは、業界・顧客の変革を専門とする戦略コンサルタントです。以下の構造化された分析を実施してください」とし、続いて、分析の目的や分析フレーム、成長ドライバーの評価、成果物の形式、分析の制約条件など具体的な内容を入力していく。さらに、社会構造、技術革新、心理変化の3つのドライバーから1つずつ選定し、「自業界で現在と5年後、それぞれどんな顧客価値が求められるか列挙せよ」と入力する。
5年後はどうなっているのか? AIと対話を行う
その結果、車の保険サービスを設定したチームでは、社会構造の変化は高齢化や人口減少、自然災害などが挙がった。技術革新は運転データを用いたリスク効果測定や自動運転のレベルを1~4まで表示といった内容が示された。また、心理変化では、コスト意識の高まりから利便性や迅速性、手続きの簡略化や透明性、事故防止や安全運転への関心の高まりによって電動自動車などの環境意識への配慮がピックされたようだ。
一方、回転寿司チェーンを設定したチームからは、「非常によくできた回答だが各社においてすでに承知している内容が表示される。そこをどうすればよいか」といった質問が挙がった。これに対し河野氏は、プロンプトの指示出しに「業界としてすでに認知されている情報やある程度業界の商習慣でいわれている情報で見えていない事実を列挙せよ」または「それらがアイデアとして認識されているのに改善されていない理由を挙げよ」と入力すると、その中にヒントが出てくることがあるとAIとの対話のコツを伝えた。
MMOL Holdings 代表取締役/CEO 河野貴伸 氏
現在の顧客の時間を可視化し、5年後の顧客の時間へ再配分
続いて、現在の顧客時間を可視化していく作業へ移る。提示されたプロンプト例は「あなたはCXデザイナー。{ペルソナ}の{購入文脈}を、選択・購入・使用 × ON・OFFで分解し、各マスに行動・所要時間・摩擦を箇条書きで。最後に、今一番短縮したい時間と逆に増やしたい豊かな時間を挙げて」というもの。または、顧客のストーリーを想像する場合は、「あなたはCXデザイナー。お客様が求める価値が顧客価値とした場合に、お客様がその顧客価値を最大限享受できるストーリーを書いて」との指示があった。
AIの回答について、飲食業界を設定したチームは「選択でのONは能動的にSNSやアプリで新商品を探す方法。OFFはコンビニやスーパーで販売されているものを手に取る。購入でのONは意識的に探し、OFFはついでに買う」といった内容が挙がったそうだ。
また、鉄道事業者を設定したチームから、「一部は説得力のある内容だったが、もう少し細かい人間の心理みたいな部分があるともっと良いのでは」といった意見があった。
最後に、先に選んだ3つのドライバーをレバーにし、選択・購入・使用の時間をどの程度短縮・増幅するかを数値で再配分する作業が行われた。その際のプロンプト例は「{上位3ドライバー}が進んだ5年後、求められる顧客価値を満たすために{上位3シーン}の所要時間(現状→将来)、必要なデータ(選択・購入・使用)、そこから可能な情報提案、価格提案を表に。実現リスクと前提条件も併記して」と提示された。
回転寿司チェーンのチームに岩井氏が入り、バラバラに提示された顧客提案を読み解いて1つのストーリーにしていった。すると、客単価ではなく、来店頻度を上げていくことに重きをおき、「オンリーワンの驚き」を得られるようなスペシャルメニューやサプライズはどうかという提案がAIから得られた。その提案に人間の視点を加え、調整を図ることで内容を深めていくことができると岩井氏は提案した。
また、河野氏より、「1~2回ラリーをして良い回答が得られなかった場合、そこで使うのを辞めてしまうのが日本人特有。AIは、最初は当たり障りのない回答が多いが、機械であるため恐れず何度でも追及してかまわない。そのやり取りを介して、その人が求めている精度に合わせてチューニングをかけてくる」との話があり、さらに、「セキュリティ面において、ちゃんと学習しない設定を行っておけば入力したものを保存はしているが学習はしていないため、情報漏洩の心配は過度にしなくても大丈夫」とアドバイスした。
最後に河野氏は、「顧客時間というテーマで話を進めてきたが、簡単に課題解決できるものではないという側面はある。しかし日本の産業が成熟しきっている点と、これ以上人口は増えず衰退していく中で、毎日時間の奪い合いが起きている現状がある。難しい課題ではあるが、だからこそAIの力も借りて、人間でだけでは決してできない、何千回、何万回もの試行を繰り返し課題解決に向き合っていく必要がある。それこそが真のAI活用と言える」と締めくくった。

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