「アドタイ・フォーラム2025」(9月25日、26日開催)では、サンリオのデザイン本部長の山田周平氏とアソシエートアートディレクターの相内清香氏、そしてADKマーケティング・ソリューションズのエグゼクティブクリエイティブディレクター辻毅氏とシニアクリエイティブディレクターの山崎真理子氏が登壇。サンリオの課題に対し、ADKが行った人材育成支援について、その内容や成果を詳しく語った。
社内では、新領域を担う人材の育成ができない
国内では人口の減少や市場の成熟といった要因によって、多くの企業が今後の事業成長のために新たなビジネス領域へ挑戦することを求められている。サンリオも例外ではなく、2020年の社長の交代をきっかけに、新たな領域へと踏み出した。
同社はこれまで、「みんななかよく」「Small Gift Big Smile!」といった企業理念のもと、グッズを通じたコミュニケーションやキャラクターマーチャンダイジングを行ってきた。しかし、それだけでは「みんな」の輪を広げていくには不十分だと考え、グッズ以外のタッチポイントとして、テーマパークにおけるリアル体験の拡張や、動画コンテンツを通じたコミュニケーション、ゲームの展開などに取り組んでいる。
そこで必要となったのが、新しい領域をディレクションしていく人材だ。同社には100人ほどのグラフィックデザイナーが在籍し、グッズのデザイン制作にあたってきたが、これからは体験のデザインや動画のクリエイティブ制作などもできる人材に成長していく必要があった。
「もちろん、外部から経験者を採用するという方法も用いますが、当社のキャラクターの知見や、キャラクターが大切にしてきた魂、メッセージといったことをインプットするには時間がかかります。そのため、すでにそうした知見を持っている社内のデザイナーの育成を両輪で進める必要があったのです」(山田氏)
サンリオ 執行役員 デザイン本部長 山田周平 氏
しかし、そうした人材を育成しようにも、社内にロールモデルとなる存在がいないことが課題だった。
ADKにアートディレクターの育成を依頼
サンリオは、外部に人材育成支援を依頼しようと考えた。そこで相談をしたのが、体験デザインやクリエイティブ制作をはじめ、クリエイティブ発想をもってさまざまな企業の支援を行うADKだ。
「グラフィックデザイナーは、一人でPCに向かってデザイン制作を行うという個人仕事が基本です。しかし、新しい領域での仕事は、あらゆる専門家と協力して仕事を進めていくことが求められます。それにはアートディレクターの能力が必要なのではと考えました。
アートディレクターといって思い浮かんだのは、ADKさんのような広告代理店。いつもプレゼンを受ける中で、イメージをきちんと言語化して共有してくれる人たちだという印象があったので、当社のデザイナーも同様のスキルを獲得してアートディレクターとして成長してくれればという期待がありました」(山田氏)
実践を通して、思考力や言語化力が身に付いた
アートディレクターの育成にあたり、まずサンリオが人材要件を定義。加えて、最初の育成対象となった相内氏とADKが面談を行い、相内氏が持っている能力や悩みなども踏まえて、「言語化スキルの向上」や「チーム力を生かす」といった相内氏の育成テーマを4つ設定した。
育成テーマに対し、ADKがどのようなステップでそうしたスキルを獲得していくかという戦略を設計。特に、「思考力」と「言語化力」の向上を重要視した。
「思考力は、いろいろな領域に取り組むうえで、その目標を実現するための考え方やデザイン思考が必要になると考えて、重視しました。また、サンリオのデザイナーさんは、グッズのデザインをすぐに形にできるところがすばらしい半面、なぜそのデザインにしたのかという言語化に不慣れでした。そこで、いろいろな企業や専門家と協業してシナジーを生んでいくために、言語化する力を伸ばすことも重要だと考えました」(山崎氏)
ADKマーケティング・ソリューションズ エクスペリエンス・クリエイティブ本部 NEXT GENクリエイティブ局 局長 シニアクリエイティブディレクター/プランナー 山崎真理子 氏
言語化力の向上のためにADKが実施したのは、デザインの目的や意図をどのように言葉にするのか、どのような順番で協業相手に伝えるのかといった考え方を示すこと。それによって、デザイナーが感覚として持っているものを協業相手に伝え、共通認識をつくり、さらにOJTという形でADKが相内氏の実務や定例会などに参加し、実践の中でインプットとアウトプットを行った。
「OJTでは、一緒に実務に参加していただいたことで、この資料はこの書き方でいいのかといったことや不安に思ったことを気軽に相談できました。また、支援を受ける前は、仕事にどう取り組めばいいのかがわからなくてすごく不安でしたが、指導を通して仕事のゴール地点が想像できるようになり、わからないことに直面したときの考え方も習得でき、何でもやってみるという精神を持てるようになりました」(相内氏)
サンリオ デザイン本部デザイン統括部アソシエートアートディレクター 相内清香 氏
実際に相内氏の育成支援にあたった山崎氏も、「6カ月という期間を一緒に過ごす中で、相内さんがどんどん吸収し、成長していく姿を目の当たりにしました。学んだだけでなく、実践で生かしながら習得できたということが、すごく良かったと思っています」と評価。
これまでサンリオは、キャラクターに関係する仕事において、徒弟制度のように先輩の背中を見て10年から15年を過ごし、一人前になっていくという育成方法をとっていた。しかし、今回の人材育成プロジェクトを通して、「背中を見て覚えるのではなく、きちんと言葉にして伝えていくというやり方を相内さんが身につけたことは、当社にとっても新たなケイパビリティの獲得になったと感じています」と相内氏の上長で同プロジェクトの発案者でもある山田氏は振り返る。
また、社内の指導では、ある程度命令になってしまったり、そこに評価が紐づいたりしてしまうこともある。その点、外部の人材育成支援であれば、素直に教育として享受できるというメリットがあり、山田氏は「それも成果に結びついた一つの要因だった」と分析している。
ADKマーケティング・ソリューションズ 執行役員 エクスペリエンス・クリエイティブ本部長 辻毅 氏
サンリオは、今回相内氏が獲得したスキルを社内の他のデザイナーに伝播していくことで、新領域を牽引できる人材を増やす見通しだ。
「ADKのクリエイティブ発想は、サンリオさんと全く異なる事業でもご活用いただけると考えています。人材育成はもちろん、新規プロジェクトやビジョンの策定、採用などに課題をお持ちの場合は、ぜひADKマーケティング・ソリューションズにご相談いただければと思います」(辻氏)







