「推し顧客が事業成果を高める~マーケティングを変革する感動体験の可能性~」と題した大広主催のセミナーが10月16日に開催された。第一部では大広の倉田潤氏が登壇し、「推し顧客」の創造、「感動体験」の設計、事業を成長させる「ダイレクトドリブン・マーケティング」について解説。第二部ではサッポロビールの黒柳真莉子氏が登壇し、約10年間で売上を2倍にしたサッポロ生ビール黒ラベルの「情質価値」について解説した。第三部では、大広の久野祐介氏がモデレーターとなり、両者によるパネルディスカッションが実施された。
推し顧客の創造と感動体験の機会提供
倉田氏は2006 年に入社して以来、主にマーケティングコミュニケーションの戦略立案を担当。ダイレクトドリブン・マーケティングのユニットに所属し、顧客や企業との「対話」から新しい可能性を探り、コミュニケーションの先にある事業成果にコミットすることを大切にしている。
大広 ソリューションデザイン本部 ストラテジックプランニング局 第1グループ 部長 倉田潤 氏
倉田氏が事業成果に起因すると考えているのは「顧客」。大広ではダイレクトビジネスを発想する起点として、「推し顧客」を創造し、目標達成まで伴走。推し顧客は商品を応援する気持ちも込めて購入し自ら情報発信をしてくれる、いわば自走状態。ファンやロイヤル顧客を超えたブランドの推し活をしてくれる顧客だと定義する。
そんな推し顧客を増やすひとつ目のステップは、プランニングの「ゴール設定」。売上を構造分解し、顧客の関与度を時間の流れや経過で捉え、対話を深めた先に、企業側の意思と顧客が抱えている思いの重なりを見つけ、ニーズやベネフィットを超えた理想的な関係性を導き出すことが重要だという。
2つ目のステップは「感動体験(CX)の設計」。感動体験とは、心を強く揺さぶることによりブランドへの愛着が大きく高まるリアルな場での体験と定義。リアルな場においてのポイントのひとつは「いつどこで」。顧客が感動体験を受け取れるモードになっていることが大切だという。次に「想像を超える」。「心が強く動かされるのは自分が思っていた枠の外側に新しい事象現象が起きたときだ」と倉田氏。最後に「開かれた」であり、感動の熱量がより多くの顧客に広がっていることがベストだと話した。
3つ目のステップは「伴走型PDCAマネジメント」。アクチュアルデータを含めて活動のPDCAをコミットしたKPIの部分を考えていく。このPDCAには「エグゼキューション」「マーケティング」「ビジネス」の3つのレイヤーがポイントだという。
ダイレクトマーケティングにおける「感動体験」の事例
倉田氏は利用率が低下傾向にある写真スタジオの事例を紹介した。利用客の「久々に家族が集まることができた」という声から「家族愛の再価値化」に着想し、写真撮影の場所から家族の日をつくる場所へと大きく認識を変えるプランニングを提案。家族の物語とプロの撮影技術を掛け合わせた体験を作り、その体験エピソードを第三者に見てもらえる仕組みだそうだ 。
老舗お菓子メーカーの事例では、長年愛されているがゆえにコモディティ化しているケースを挙げた。消費財から嗜好品へと意識を変えるべく、希少な商品が並ぶギャラリーを目指した自社直営の体験店舗を開発 。意識変革に 一役買うことができたという。
最後に、大広の採用活動の事例を紹介した。エントリーシートをダイアログシートに変え、丸いテーブルを囲んで話すスタイル、SNSでの対話など、学生を「選ぶ」ではなく「向き合う」スタンスで相互に理解を深める場を作った結果、就職ランキング304位だったのが83位まで伸びたという。
サッポロ生ビール黒ラベルのリブランディング
黒柳氏は2024年からサッポロ生ビール黒ラベルのブランドを担当し、大広と二人三脚で展開している。「事業成果を高める鍵は感情の質にある」と黒柳氏。黒ラベルは2014年から2024年の間に、缶の年間売上 数量が約2倍に成長。ビール離れといわれる昨今だが、黒ラベルの支持層は若年層が増加しているのが特徴だそうだ。
サッポロビール マーケティング本部 ビール&RTD事業部 サッポロブランドグループ 「サッポロ生ビール黒ラベル」 ブランドマネージャー 黒柳真莉子氏
同社では、感情の質を高めて人生を豊かにする価値のことを「情質価値」と提言。過去に黒ラベルは「繁盛店の生」というシリーズでCM展開しており、職場の仲間と豪快にグイっと飲む演出が多かったが、2010年にリブランディング。「黒ラベルを選ぶことが自分らしく生きることを後押しする存在」と再定義し、黒ラベルのあるべき姿を捉えた言葉を「大人の☆生 」とした。CMでおなじみの「丸くなるな、☆星になれ。 」というブランドメッセージには、自分らしさに向き合いながら前に進む大人を応援するという思いが込められている。
サッポロ生ビール黒ラベルにおいて「感情の質」を高めるとは
リブランディング後は、「両輪」「時間」「余白」 の3つのポイントでマーケティングを実施。黒ラベルは世界観と味覚の両輪を大切に。ブランドの世界観を信じ、時間をかけてコミュニケーションを継続してきた結果、消費者の間で愛着が醸成され、ブランドの深みが増してきたという。CMは俳優の妻夫木聡さんがゲストに問いを投げかけ、ゲストが自分の 言葉で答えるという台本のない企画。消費者が「自分だったらどうだろうか」と考える余白を、あえて残したという。
実際のブランドアクションは「広告」「体験」の2軸で展開。CMでは時代性やシーズナリティにマッチさせつつ、自分の思いを言葉にできるような人をキャスティング。体験においては、2015年から黒ラベルのビヤ ガーデンの展開や「THE PERFECT 黒ラベル WAGON (以下黒ラベルWAGON)」という移動型の体験イベントを実施。また、「その日の 一杯目を完璧な生ビールで始めていただくこと」にこだわった常設店「サッポロ生ビール黒ラベル THE BAR (以下THE BAR)」を銀座に構えている。また、フェスに協賛し、来場者の心が動くタイミングで良質なブランド体験をしてもらう機会提供も図っている。黒ラベルを支持する若年層は、こういった接点から取り込めていると黒柳氏は明かした。
「感動体験をもたらすマーケティングの可能性」パネルディスカッション
「感情の質を高めるためにどのような設計をしたのか?」この問いについて黒柳氏は、黒ラベルWAGON入口の年齢確認用にCM「大人エレベーター」 の世界観を疑似体験できるゲートを設置した事例を明かし、体験導線に沿ったブランド体験を重視していることを語った。また、THE BAR を銀座に出店した理由については、「銀座は大人の街であり、黒ラベルも大人の生に紐づく形でわかりやすく展開できる」と黒柳氏。倉田氏も、銀座は推し顧客の仲間を増やし、パートナーとの関係を育てていく基点にもなっていると考えを述べた。
2025年7月、「サッポロ生ビール黒ラベル」のブランド体験拠点 「サッポロ生ビール黒ラベル THE BAR」を リニューアル
黒ラベルのCMでは一切味について触れていないが、奥田民生さんが「生きるとは?」の質問に「用事があるからですかね」と答えたシーンでは、視聴者から「病気で辛く、なぜ生きているんだろうと思い詰めていたが、少し肩の荷が下りるような言葉をCMから受け取った」という意見があったという。感動体験を実現するため、黒柳氏はTHE BAR のスタッフや全国13カ所の黒ラベルWAGONの 会場スタッフにもブランドの思いを伝えている。また倉田氏は、感動体験を設計するにあたって、自分自身が心動かされるシーンに足を運んで体験を積むことを大切にしていると話した。
今後AIが発展した際、ブランドと顧客の関係性はどうあるべきか? 黒柳氏は、好きなものは突き詰めていけるが幅が広がっていかないと感じている。そんなときに想定外の偶発性や想像を超える体験を届けられると、心が動いてファンになってもらえるのではないかと考えを述べた。倉田氏は、自分で意思やこだわりを持って選ぶこと自体に意味づけがされ、価値化していく流れにあると見解を示し、今後はそれをふまえたマーケティングが重要だと語った。
今後の顧客との関係づくりについて黒柳氏は「情緒やブランドメッセージを大切に、ビールを飲まない人にも共感を呼びかけ、ビールというカテゴリの枠を超えて深くつながれるファンを作っていきたい」と語った。そして倉田氏は、「ビールとは関係ない場所でも名前が聞けるようなブランドにしていきたい。ブランドを想起して自分と結びつけてくれるシーンが増えていくことが、ブランドとしての豊かな状態だと思う」と締めくくった。
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