言語化しにくい美容評価をデータから数値化
━━まず、化粧品研究所で担当されている領域と、西野さんがAI研究に携わるようになった経緯を教えてください。
化粧品研究所では、花王グループのメイクアップでいうと「KATE(ケイト)」「LUNASOL(ルナソル)」などの商品開発を担当しています。
もともとはコンピュータサイエンスを専攻していて、画像解析を専門にしていました。博士課程を修了した後の2012年に入社。肌の状態やメイクの仕上がりを画像から分析する研究を進めていました。さらに深層学習(ディープラーニング)が急速に進化した2010年代後半から「これは化粧品研究に応用できる」と感じ、本格的に取り組み始めました。
2020年に新型コロナウイルスの影響で在宅期間が増えたこともあり、その時間を使って深層学習を実務レベルまで勉強し直しました。そこから社内でAIを活用した解析技術のプロトタイプをつくり、2021年に第一弾となる「Kirei肌AI」をリリースしました。顔画像から17.8㎜四方に切り出した小領域肌画像“肌パッチ”をディープラーニングで学習することを特徴とし、「素肌と化粧肌」「化粧直後と時間が経った後」など、さまざまな肌状態のわずかな質感の違いを識別することが可能です。
━━Kirei肌AIは、小さな「肌パッチ」を単位に解析する手法が特徴です。なぜ「顔全体」での印象の判断にしなかったのでしょうか?
人間が肌を見るとき、実は「顔全体」を見ているようで、「場所ごとに別々に」判断しています。頬は毛穴が気になる、額は滑らか、といった具合ですね。この“人間の判断構造”をAIに落とし込むため、「画像を小さなパッチに分解して部位ごとに解析する」方法を採用しました。
これにより、「化粧しているかどうか(化粧感)」「透明感」といった、人間でも言語化しづらい質感をAIが特徴量として学習できるようになります。また、パッチごとの結果をマッピングすることで、顔全体のヒートマップとして可視化できるのも大きな強みです。
サイズが異なる肌パッチ画像の例
化粧感評価AIによる解析結果可視化例
━━確かに、美容の評価は言葉にしづらいですね。
そうなんです。言語化できないからこそ、研究者の“勘と経験”に依存する領域が多かった。しかしAIは、そうした人間の感覚を大量のデータから学習して数値化してくれる。これが研究開発に大きな変化をもたらしました。


