SNSから生まれた“具なしの中華まん” 井村屋『すまん』なぜヒット?

「肉まんの皮だけを食べたい」というSNSの投稿から生まれた井村屋の『すまん』。2020年にオンライン限定で発売されると、わずか2ヵ月で完売した。大規模な広告を打つのではなく、まずは自社ECでテスト販売し、顧客の声をもとに改良を重ねる。さらに流通に展開する際には、アレンジレシピをパッケージに掲載するなど「売り場でどう伝えるか」に徹底してこだわっている。SNSを“売上の場”ではなく“対話の場”として活用する姿勢も奏功した。

完売が相次ぐ皮だけの“素(す)”の中華まん

━━具が入っていない中華まん「すまん」が好調だと聞きました。

金井:「すまん」は、通常の中華まんに欠かせない具材をあえて入れず、生地そのものの味わいを全面に出した商品です。井村屋は、肉まんやあんまんといった定番商品で知られていると思いますが、2020年に発売されたのが「すまん」です。最大の特徴は、なんと言っても中に具を一切入れず、生地だけで勝負する“素(す)の中華まん”という点。従来の常識を覆す発想ですが、このアイデアはSNSを起点に生まれたものでした。発売直後もSNSを中心に話題を呼び、初回販売分はわずか2カ月で完売となりました。

━━「すまん」のターゲット層を教えてください。

金井:「すまん」の主なターゲットは30~40代女性としていますが、とくに料理やおやつをアレンジして楽しみたい層に向けて商品を設計しました。

実際、SNS上では「好きな具材を挟んでオリジナルまんをつくった」「子どものおやつにちょうどいい」といった投稿も多いです。ターゲットを設定しながらも、用途や年代を超えて受け入れられていると感じています。2025年8月に発売した「すまん」では、お客さまの声から保存や利用のしやすさを考慮し、従来の6個入りから2個入りの個包装にリニューアルしました。袋のまま電子レンジで温められるため、手軽に楽しめる点も支持を集めていると考えています。

左:2025年発売のパッケージ、中央:2021年発売のパッケージ、右:2020年発売当時のパッケージ。販売チャネルにあわせ、パッケージデザインも変更している。

「本当に売れるのか?」SNS発で誕生するまでの背景

━━井村屋にとって、具のない中華まんを企画・販売するのは挑戦とも言えそうです。開発背景を教えてください。

金井:「すまん」は、井村屋が培ってきた二段発酵製法を採用し、しっとり、もっちりとした食感に仕上げています。具を入れないからこそ、素材の良さや製法の技術力が物を言う商品だと思っていますし、井村屋だからこそ展開できる製品だと思っています。

浅田:開発の背景で言うと、企画のきっかけとなったのは2014年に井村屋が公式X(当時はTwitter)で発信した1つの投稿でした。「肉まんの皮だけを食べたい」というお客さまの声を引用して投稿したところ、多くの共感や反響が寄せられたんです。しかし当時は「本当に売れるのか」「開発オペレーションはどうするのか」という社内の声もあり、商品化に至りませんでした。

また、この投稿をした約10年前の2014年は、各企業がTwitterを始めたばかりの黎明期でしたし、今よりも理解されづらかったという理由もあるかもしれません。

━━そのような社内の声もありながら2020年に発売できた理由は何だったのでしょうか。

浅田:2014年当時は商品化に至らなかったとはいえ、社内ではあの投稿の反響をきっかけに、“皮だけ”の中華まんの開発を進めていたのが正直なところです。2020年に再度「皮だけほしい」という当時のツイートを引用した投稿を行ったのですが、実はその時すでに商品化の目途がたっていたんです。

約6年ぶりに同じ内容のツイートをしましたが、やはり当時と変わらず反響は大きいものでした。このTwitter(現X)上の盛り上がりを見て、金井をはじめとした開発部が試作を重ねてくれました。社長も試作品を試食し、「お客さまがこんなに望んでくれているのに、提供しないという選択肢があるのか?」という言葉で、プロジェクトは本格的に動き出しましたね。まずはオンライン限定で発売することが決定したという流れでした。

食を取り巻くニーズにマッチ“アレンジ中華まん”が奏功

━━開発当初の懸念を払拭するくらい、現在「すまん」は人気商品になっています。ヒットの理由をどう捉えていますか。

浅田:「すまん」がヒット商品へと成長した背景には、いくつかの要因が重なっていると考えています。第一に、井村屋が長年培ってきた「生地のおいしさ」への信頼感です。井村屋の定番商品に中華まんがあるように、「井村屋のつくる中華まんならハズレはない」という安心感がポジティブに働いたのではないかと思っていますね。具材に頼らず生地だけで勝負できるのは、技術力への評価があってこそだと自負しています。

金井:2つ目は、――

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