TOQビジョンで電車内が「体験の場」へ
東急エージェンシーは、同社が手がける統合コミュニケーションプランニングに「体験価値の提供」に重きを置く「Phygital Experience Design」のアプローチを提唱している。「Phygital(フィジタル)」とは、フィジカル とデジタルを融合させた概念で、同社はこのPhygitalに基づいて体験価値の設計を行う。顧客がブランドと接するすべての接点を最適化し、顧客に提供する体験価値を最大化するのが狙いだ。
米コロンビア大学のB.H.シュミット教授の経験価値マーケティングの考え方から、体験を「感覚・感情・思考・行動・関係」という5つに分解し、それぞれのブランドやサービスが持つ独自の価値を、最も効果的な形で生活者に届けるための戦略を立てている。
東急線の車内ドア上 に設置され、広告だけでなくニュースやエンタメコンテンツも配信する 「TOQ(トーク)ビジョン」も同様の考えに基づく。東急OOHメディア事業局次長で事業戦略部長の星野一道氏は次のように語る。
東急エージェンシー 事業共創本部 東急OOHメディア事業局次長 兼 事業戦略部長 星野一道 氏
「TOQビジョンは、ニュースや天気予報はあるものの、広告がほとんどで、情報伝達が主体でした。それを、没入感のあるコンテンツを導入することで、生活者が能動的に関与し、感情や思考を動かされる“体験の場”へと昇華させることを目指しています」
このフィジタルなビジョンを具現化する具体的な取り組みとして、今年4月から展開しているのが没入型広告企画「TOQ IMMERSIVE OOH_MOVIE」だ。この企画の根幹には、電車内という限られた空間で、多くの生活者がスマートフォンに目を向ける現状に対し、TOQビジョンという媒体自体の注目率と好感度を飛躍的に向上させたいという強い意志がある。「第一の目的は、TOQビジョンを『見たい』と思ってもらうこと、そして『好きになってもらうこと』。その上で、TOQビジョン媒体を活用した新たな商材開発へとつなげていくことが目標です」と星野氏は強調する。
「TOQ IMMERSIVE OOH_MOVIE」は現在もラインナップを拡充中
独自コンテンツでOOH広告の好感度上昇
具体的には、ショートドラマクリエイター集団「ごっこ倶楽部」を運営するGOKKOと連携して制作したショートドラマ、科学の面白さを伝える「Quizカガク視点」 (『Newton Hub』と連携 )、KDDIとアスミック・エース、東急 とのコラボレーションによるショートドラマ「#たぬきのデンゴン」と、ターゲット層の興味関心を惹きつける多様なコンテンツを、TOQビジョンで発信してきた。
これらのコンテンツは、単なる広告の合間に流れる映像ではなく、生活者が能動的に関心を持ち、没入できる「体験」を提供することで、TOQビジョンという媒体そのものの価値を高め、ブランドとの新たな接点を創出する試みとなっている。
同社は「TOQ IMMERSIVE OOH_MOVIE」の実施効果を検証するため、プロジェクト開始前後の複数回にわたる詳細な調査を実施している。事業戦略部の山田桃華氏は次のように説明する。
東急エージェンシー 事業共創本部 東急OOHメディア事業局 事業戦略部 兼 第2メディア部 山田桃華 氏
「調査の結果、TOQビジョンが特に10代から30代の若年層に強く支持されている媒体であることが改めて裏付けられました。特筆すべきは、『TOQ IMMERSIVE OOH_MOVIE』が、TOQビジョンを『見るきっかけ』として機能しているという点です。従来の調査では、広告自体をきっかけにTOQビジョンを見たという回答が20%に留まっていたのに対し、コンテンツをきっかけに見たという回答は30%に達し、特に『Quizカガク視点 』に至っては、約40%もの回答者がコンテンツを視聴の契機として挙げています」
コンテンツに対する好感度も顕著に向上している。「Quizカガク視点 」では知識習得の楽しさ、「#たぬきのデンゴン」では沿線への親近感といった、ポジティブな感情的・思考的体験が、生活者の満足度を高め、媒体への好感度向上へとつながっていることが確認された。東急エージェンシーでは、この好意的な反応を最大限に活用し、今後は広告セールスにおいても、コンテンツと広告を統合した新たな提案を強化していく方針だ。
精緻なデータ分析がOOH広告の可能性を広げる
OOHメディアを巡る業界共通の効果指標策定の動きが進んでいるが、東急エージェンシー独自でも、鉄道利用者のデータ取得と活用の強化を通じて広告主の要請に応えようとしている。その中核を担うのが、独自の「モバイルID」の取得だ。
この仕組みは、Beacon機器を駅構内や商業施設といった生活動線上に戦略的に配置し、周辺を通過する人々のスマートフォンから匿名化されたデータを取得するもの。これにより、駅でOOH広告に接触した生活者が、その後どのような商業施設で購買し、あるいはデジタル空間でどのようなメディアに接触し、最終的にコンバージョンに至ったのか、といった一連のユーザー行動を追跡・分析することが可能となる。東急グループ内外の多様なデータを組み合わせることで、より精緻で信頼性の高い分析と、それに基づいた広告効果の可視化を目指している。
広告効果の向上に向け、位置情報データベースの拡張に取り組む
事業戦略部の大木寿真氏もこうしたデータ分析が持つ可能性を次のように語る。
「OOH広告は、その効果が可視化しにくいという長年の課題に対し、データに基づいた効果測定を可能にすることで、クライアントは広告キャンペーンのPDCAサイクルをより効率的に回し、投資効果を最大化できるようになります。デジタル広告に強みを持つ広告代理店の方にもぜひOOHを提案していただきたいですし、新たなビジネスチャンスを切り拓くことにもつながると考えています」
東急エージェンシー 事業共創本部 東急OOHメディア事業局 事業戦略部 兼 第1メディア部 大木寿真 氏
デジタルマーケティングを主戦場とする事業会社の中には、刈り取り型に特化するあまりブランドイメージの醸成といった課題に直面しているケースは少なくない。こうした企業に対し、東急エージェンシーが提供する、データに基づいた精緻なOOH広告活用は、「実体感の希薄さ」といったデジタル広告特有の課題を補完し、ブランド認知の向上や、デジタル広告との相乗効果による新たな顧客層の獲得といった、具体的なソリューションを提供し得る。
「『効果が見えないから』とOOH広告の活用を躊躇するのではなく、『効果が見えるなら、一度試してみよう』というきっかけを提供したい」と星野氏は話す。
「データ活用を通じて、より多くの企業にOOH広告の持つポテンシャルを実感してもらい、その可能性を最大限に引き出してほしい。将来的には、さまざまな取得データを統合・分析し、ファーストパーティーデータプレイヤーとしての地位を確立することで、クライアントのマーケティング活動全体を包括的に支援していくことを目指しています」

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