音楽家/映像ディレクター 村井智さんの「僕が朝コーヒーを淹れる時の音楽」

クリエイターの皆さんに独自のお題を設定してもらいプレイリストをつくってもらうシリーズ企画。プレイリストはSpotifyでも公開中です。

弱い柔らかな個人のありふれた日常

音楽家の自我が選曲の邪魔をする。大好きな90’s LUNA SEA、実験音楽、前衛メタルや音響作を入れて、鋭利な雰囲気を出さねばならないのではないか、とか。また僕は身近な曲を特に好きになる音楽家なので、よく聴く自作曲や友人曲で構成した「村井のリアリティ」をつくるべきなのでは、とか。音楽家の自我は安易な選曲を許してくれません。

いつもそんな時に、恩師であるグラフィックデザイナーの佐藤晃一先生が僕に言った「君は君の才能を知って欲しくて、これでもかと自分を出そうとしているね。プロはそんなことをしません。ちょっと君が匂うくらいがカッコ良いのですよ」という言葉を思い出します。事あるごとに思い出すその箴言を胸に「村井のプレイリスト」を再考します。

僕は数年前から、“デカ主語”が孕む大きく力強く鋭い物語より、個々人の小さくて弱くて柔らかい物語に惹かれるようになりました。それは産まれてきたまだ弱く柔らかい個人、子どもたちの影響もあります。そんな僕のプレイリストなので、それはつまり「弱く柔らかい個人の日常プレイリスト」ってことでしょう。よし、テーマが決まればイキッた自我に出番はありません。

さて僕の日常はというと、毎朝子どもを送り、その後スタジオに行って、最初にタバコを吸いながらコーヒーを淹れるというルーティンから始まります。その時間は大好きな音楽を柔らかく聴けて良いんですよね。弱い柔らかな個人のありふれた日常です。「僕が朝コーヒーを淹れる時の音楽」なんて「僕」の部分以外ありふれた弱さだけど、佐藤先生理論に則ればそれこそが良いはずです。

まぁ、仕方なく雑念でちょっと演出もしたりして。まぁ、僕は弱い人間なので。

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村井智(むらい・さとし)

音楽家、映像ディレクター、アーティスト

1983年生まれの音楽家、映像ディレクター、アーティスト。世田谷レフトフィールドビートサロンIQ3 のメンバー。MURAIMURA代表。今はなきグラフィックチームTYMOTE 所属時代からメディアを問わず音楽や映像を手がける。D&AD2022 Sound Design & Use of Musicで審査員を務める。代表作は船場センタービル50th記念短編アニメーション「忘れたフリをして」など。

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