マンガ×AIの現在地──創作の補助から共創へ【前編】

絵を描くという行為は、人類の歴史の中で長い間続いてきた根源的な営みである。特にマンガは、現代の活きた表現方法として広く受け入れられており、その創作の過程にAIがどのように関わるかは、今まさに注目されているテーマだ。立命館大学の迎山和司教授は、マンガ制作におけるAIの役割とその可能性を探るべく、AIを使ったマンガ制作に取り組んでいる。2000年頃から始まった彼のAIに関する実験は、現在、マンガ制作の補助から共創へと進化している。今回のコラムでは、マンガにおけるAI技術の進展を、2020年の「TEZUKA2020」プロジェクトを起点に振り返りながら、今後の可能性について考察する。AIがマンガを描くことが可能になる時、人間の創造性とはどのように関わるのだろうか。その答えを、迎山教授が深掘りする。

ヒトはなぜ絵を描くのか

マンガに限らず、絵を描くという行為は、古代の洞窟壁画から現代のデジタルアートに至るまで、人間の根源的な営みであり続けてきた。なぜ私たちは絵を描き、物語を紡ぎ、他者と共有しようとするのか。この問いに、明確な答えはまだない。

私は大学で美術を学び、映像や写真を制作していたが、2000年頃、ふと考えた。ヒトでない存在──AIに「描くこと」を教えれば、ヒトがなぜ描くのか、その本質が見えてくるのではないかと。

それ以来、私は作品を創造するAIを作り続けてきた。現在はマンガを描くAIに取り組んでいる。マンガは現代の活きた表現であり、幅広い人々に受け入れられやすい形式だからだ。

このコラムでは、マンガを通じてAIと人間の創造性の関係を探る。2020年の「TEZUKA2020」プロジェクトを起点に、AIがマンガ制作にどのように関わり始めたのか、そしてこの5年間で何が変わったのかを振り返りながら、現在の技術的到達点と未来の可能性を考察する。

AIはマンガを描けるのか? それは模倣なのか、創造なのか? そして、AIが描いたマンガをヒトはどう受け止めるのか? この問いの先に、ヒトが絵を描く理由が、少しだけ見えてくるかもしれない。

「TEZUKA2020」から始まったマンガとAIの接点

「TEZUKA2020」は、手塚治虫の特徴を学習したAIが新作マンガを制作するという挑戦的なプロジェクトだった。私は2017年頃から、自分の人工知能画家のテーマをマンガに広げ、手塚マンガを参考にしていたので、この試みには強い関心を持った。

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「TEZUKA2020」では私はそれほど役に立ったわけではなかったが、機械学習型AIが絵を描く可能性を社会が受け入れ始める予感を強く感じた。同プロジェクトが終わったのちに、私自身も、日本のギャグマンガ界を代表するしりあがり寿先生の協力を得て、代表作『地球防衛家のヒトビト』を分析し、完全自律型マンガ生成AIを昨年2024年に完成させた。しかし、発表はしていない。理由は単純だ。面白い物語が作れなかったからだ。

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