AIによる自動化が急速に進むデジタル広告領域では、広告成果を左右する「コンバージョンデータ」が、Cookie規制の強化によって正確に取得できないという課題が顕在化している。この状況を踏まえ、デジタルマーケティング支援を行うアユダンテの杓谷匠氏は11月26日に開かれた「宣伝会議サミット2025」において、「AI時代の広告運用の考え方」「ブラウザ規制」「規制に対するソリューション」「実装に必要な法知識」について解説した。
広告運用の最適化はAIが行う領域に
デジタル広告プラットフォームでは、Googleの「P-MAX」やMeta「Advantage+」など、AIによる自動最適化が急速に普及している。広告運用の多くはAIが担う領域へ移行し、人が介在する範囲は限定的になっていく。AI時代の広告運用は、運用そのものがAIへ置き換わっていく段階に入っているといえる。
アユダンテ GMPコンサルティング事業部 デジタルストラテジーディレクター 杓谷匠 氏
AIの広告最適化は「データ収集期」「チューニング期」「パフォーマンス期」の3段階で進む。開始直後はコンバージョンがなく、AIは情報集めのためクリック最大化を狙う。1週ほどでコンバージョンが発生すると調整が始まり、3週目には最も効率的な配信が行われる段階に入る。
重要なのは、パフォーマンス期に達するまで時間が必要であり、途中で調整を加えると学習がリセットされてしまう点だ。推奨コンバージョン数は月70件程度だが、件数が少なくても学習は進む。AIが正しく最適化できるよう、学習期間は「手を入れずに見守る」ことが成果を最大化する鍵となる。
AIの学習材料として重要なコンバージョンデータだが、この計測がブラウザのCookie規制によって年々難しくなり、現在の広告運用における大きな課題になりつつある。
Cookie規制を取り巻く国内の現状は
Google ChromeとSafariにおけるCookie規制の状況
Cookieには「サードパーティーCookie」と「ファーストパーティーCookie」の2種類がある。サードパーティーCookieは訪問したサイトとは異なるドメインから発行される。一方、ファーストパーティーCookieは訪問したサイトと同じドメインから発行されるのが異なる点だ。
Google Chromeは当初、サードパーティーCookieを段階的に廃止する方針だったが、現在は一定条件下で利用を認める方向に転換している。ファーストパーティーCookieは引き続き制限なく利用でき、比較的緩やかな規制となっている。
対照的に、AppleのSafariは非常に厳しい。サードパーティーCookieは完全に削除され、ファーストパーティーCookieも保存期間が7日間に制限される。さらに、広告経由の訪問では保存期間が24時間に短縮される。
サードパーティーCookie削除が広告計測に与える影響は大きく3点ある。1つ目は「ビュースルーコンバージョン」の消失。広告を見たユーザーが後から行動したかを計測する仕組みだが、サードパーティーCookie依存のため計測不可になる。
2つ目は「オーディエンスターゲティング」の縮小。リマーケティングや興味関心ターゲティングなど、閲覧履歴を基にした配信が大幅に減少する。
3つ目は「自動入札に使われるシグナルの減少」。これらのデータはAI最適化の材料であるため、減少するとCPAやROASが悪化する可能性がある。
これらのことから、サードパーティーCookieの削除は主にオーディエンスシグナルの弱体化につながるという。
一方、ファーストパーティーCookieの保存期間短縮による3つの影響も紹介。1つ目は「コンバージョン計測」への影響。保存期間が短くなることで計測漏れが発生する。特にSafariでは広告経由訪問の24時間以降のコンバージョンが計測できない。
2つ目は「ユニークユーザー数の計測」への影響。Cookieがすぐに削除されるため新しいCookieが付与され続け、実際よりユーザー数が多くカウントされてしまう。
3つ目は「参照元情報の欠損」。Cookieが消えることでアクセスの流入元が不明となり、Googleアナリティクスでは「(direct)/ none」が増加し、分析精度が低下する。
この中でもAI時代の広告運用にとって特に深刻なのは「コンバージョン計測の欠損」である。十分なデータがなければAIは適切に学習できず、配信対象を狭めすぎる結果を招き、売上に影響が出る可能性が高いという。
特にSafariの規制は厳しいが、影響はSafariブラウザ利用に限らない。iPhoneのアプリ内ブラウザはすべてSafariのエンジンを使用しているためだ。Google検索アプリ、LINE、Instagramなどから開くリンクもSafariの制限が適用される。
日本ではスマートフォンOSの約60%をiPhoneが占めており、影響は非常に大きい。実際にクライアントデータを調査すると、Googleアナリティクスの参照元情報の39%が欠損していた。
さらにGoogle広告のコンバージョン数を調べるため、独自技術で保存期間が上書きされないCookieを発行して検証したところ、あるクライアントでは27.2%のコンバージョンが計測されていないことが判明した。管理画面には表示されておらず、全体の約4分の1が失われていた計算になる。
見えないデータをいかに補完するか
コンバージョン欠損の主な対策ソリューション
コンバージョン欠損は広告プラットフォームにとっても重大な問題であり、主要プラットフォームは対策ソリューションを提供している。主な対策は「ログインIDを使う方法」と「サーバー発行Cookieを使う方法」の2種類だ。
ログインIDを用いる方法として、Google広告の「拡張コンバージョン」、Meta広告の「詳細マッチング」がある。いずれもメールアドレスを広告プラットフォームへ送信し、ログインIDと照合してコンバージョンを補完する仕組みだ。
広告がクリックされると、Google広告はランディングページURLに「クリックID」を付与し、GoogleタグがそのIDをファーストパーティーCookieとして保存する。ユーザーがコンバージョンすると、保存されたクリックIDが読み取られ、Google広告へ送信されることで計測が成立する。しかし、SafariではCookieが24時間で削除されるため、クリックとコンバージョンの紐づけが失われ、管理画面に反映されない欠損が発生する。
これを補う仕組みがログインIDだ。クリック時とコンバージョン時のメールアドレスが一致すれば、Cookieがなくても紐づけが可能。Googleタグマネージャーにはメールアドレス送信機能があり、送信されたデータは暗号化され、YouTubeやGmailなどGoogleのログイン情報と照合される。
「サーバー発行Cookie」も解説。ファーストパーティーCookieにはJavaScript発行のものと、サーバー側が発行するものがある。JavaScript発行CookieはSafariで24時間に制限される一方、サーバー発行Cookieは7日間保持され、条件を満たせば無制限保持も可能だ。
サーバー発行Cookieを使う場合、ブラウザと広告サーバーの間に計測サーバーを設置し、クリックIDを発行・保持する。コンバージョン時に計測サーバーから広告プラットフォームへデータを送ることで正確な紐づけが可能になる。
ただし、メールアドレスやCookieの取り扱いには法的配慮が必要だ。メールアドレスは日本法では単体では個人関連情報だが、多くのマーケティング運用では個人情報として扱う必要がある。
また、広告プラットフォームへのメールアドレス送信は「第三者提供」に該当するため、プライバシーポリシーの改定と利用者からの明示的同意が必須だ。さらに提供先が海外の場合は、移転先の保護水準などの記載も必要だ。
Cookieは日本では個人関連情報のため同意なしで利用できるが、GDPRなど海外法では個人データ扱いとなる。海外アクセスがある場合は同意バナーやタグ制御が必要であり、Googleタグマネージャーの「同意モード」が活用できる。
AI時代の広告運用ではコンバージョンデータの重要性が一段と増す。一方、Cookie規制により欠損が発生するため、ログインIDとサーバー発行Cookieによる補完が不可欠となる。
加えて、実装には法的知識が求められ、マーケティング・法務・IT部門の連携が必要になるという。
杓谷氏は「アユダンテでは、これらの領域を横断して支援するコンサルティングサービスを提供している」とまとめた。
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