「請求書ベース」の支払管理は法令違反のリスク
公正取引委員会は12月10日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)」に基づき、放送業および広告業の事業者128社に対して是正を求めたと発表した。この法律はフリーランスとの取引を適正化するためのもので、広告業界にも大きな影響を与えている。広告・クリエイティブ業界ではフリーランスとの取引が多く、特に「取引条件の明示義務違反」や「報酬の支払期日における違反」などが目立っている。
広告・放送業を重点的に調査した理由について、公正取引委員会 事務総局経済取引局取引部 フリーランス取引適正化室長の小林慎弥氏は、フリーランスとの取引が極めて多い業界として以前から認識されていたため、改めて集中的な調査を行ったと説明している。これらの違反については「業界特有のものではない」としつつも、過去の慣例が残る広告業界が注意すべき点は多い。小林室長に特に気を付けるべき点について話を聞いた。
「取引条件の明示義務違反」が多い広告業(画像はイメージ)
同委員会は2024年度に、問題事例の多い業種の発注事業者3万人を対象とした「フリーランスとの取引に関する調査」を実施した。あわせて、フリーランス・事業者間取引適正化等法の規定に違反する事実の申出から得られた情報などを踏まえ、取引の多い放送業や広告業の事業者を対象とした集中調査を実施。その結果、2025年10月までに同法第22条の規定に基づき、128社の事業者に対して是正を求める指導を行った。
小林室長によれば、今回の128社の指導事例のうち、特に多かったのはフリーランス法第3条の「取引条件の明示義務違反」と第4条の「期日における報酬の支払い義務違反」の2つだ。
こうした違反の背景には、業界特有の慣行が強く影響している。口頭ベースでの発注が常態化しているだけでなく、会社全体で法令遵守を意識していても現場までその認識が浸透しておらず、従来のやり方が継続されていることが要因だ。
追加負担は発注者側が積極的に確認
フリーランス法第3条では、発注者が業務を委託する際、取引条件を明示することが義務付けられている。指導対象となった主な事例として、Web制作などを委託した広告業のM社が、業務委託の際に直ちに明示すべき「情報成果物の受領場所」および「検査完了日」を記していなかったケースが挙げられた。
広告制作の現場では仕様変更や追加作業が頻繁に発生するが、その際の費用負担には注意が必要だ。受注者側から追加費用の申告がないまま、発注者も確認せずに作業を進めてしまうケースが散見される。
小林室長は、追加作業が発生した際に発注者がその費用を適切に負担しなければ、法が禁じる「不当な給付内容の変更ややり直し」に該当する可能性があると警鐘を鳴らしている。
仕様変更が発生した際に受注者側が追加費用を求めてこなかった場合、発注者に直接的な「確認義務」までは発生しない。しかし、最終的に追加費用を負担しないままとなれば違反に問われるため、発注者側からの積極的な確認姿勢が望ましい。
小林室長は、力関係の差からフリーランス側は声を上げにくい実情があるとし、発注者側が主体となって確認することの重要性を強調。追加作業が発生した場合は、その都度費用負担を確認する姿勢が重要だ。
また、第3条に関連して注意すべきは「未定事項」の取り扱いだ。広告制作では発注時点で撮影日や使用媒体が確定していないことも多い。その場合は、未定である理由と確定予定日を相手方に明示する必要がある。その上で、受注者と十分な協議を行い、未定事項が確定した際には、速やかに明示しなければならない。
