「850人以上の応募の中から選ばれた、未来のデザイナー候補たち25人が集まりました」
そう語るのは、日本パッケージデザイン協会(JPDA)理事の三原美奈子氏。協会が主催する「日本パッケージデザイン学生賞」の受賞者特典として行われる企業研修ツアーは、未来のデザイナーにとって、またとない学びと出会いの場となっている。
パッケージが生まれる「源流」から、デザインが形になるまでの全工程を巡る2日間。そこでは、一体どのような体験が学生たちを待っているのか。本記事では、プログラムの一部をお届けする。
パッケージの“すべての行程”を巡る
この研修の特徴は、網羅性にある。プログラムはパッケージが生まれる最初の瞬間からデザインの最終工程まで、一気通貫で体験できる。
「1日目は、まず王子ホールディングス/王子マテリア江戸川工場へ行きました。都内で唯一、古紙からパッケージで使う白板紙をつくっている製紙工場です。自分たちが普段使っている紙が、回収された古紙からどうやって再生されるのか。その巨大な機械と工程は、学生たちにとって圧巻の光景だったようです」(三原氏)
その後、一行はエンボスや特殊箔押しの「版」を制作するツジカワ、サントリーなどのパッケージ印刷を手掛けてきた寿精版印刷といった加工の現場を訪問。マテリアルが生まれ、印刷され、特殊加工を施されるという、普段は見ることのできない“モノづくりの現場”を目の当たりにした。
そして2日目は、視点を変えて「デザイン」そのものにフォーカスする。国内外の化粧品パッケージを数多く手掛けるアートディレクターの東海林小百合氏と、大手化粧品メーカー・ポーラのインハウスデザイナーである渡辺有史氏が登壇。デザインの最前線で戦う二人のトップクリエイターから、その哲学とリアルな仕事術が語られた。
三原氏は「1日目は現場でモノがどう出来上がるかを学び、2日目は出来上がる前にどう考え、デザインを検証していくかを学ぶ。この2日間で、学生たちは全工程を理解できる構成になっています」と、その狙いを明かす。
JPDA学生賞の受賞者・審査員など関係者一同。2日間の研修の前日に贈賞式が開催される
左から、金賞受賞の金沢美術工芸大学 近間莉咲子さん、大賞受賞の陳楠楠さん、金賞受賞の専門学校桑沢デザイン研究所 巌天媛さん
2日目の研修は、日本パッケージデザイン学生賞のトロフィーの化粧箱などを手掛けた 五條製紙のショールームで開催された
「パッケージは“小さな宇宙”。顧客との密接な旅路が始まる」
研修2日目は資生堂クリエイティブに訪問し研修を受けたのちに五條製紙のショールームへ移動。そこでは、SAYURI STUDIOを主宰するアートディレクターの東海林小百合氏による講演が行われた。資生堂『ザ・ギンザ』やアスレティア、ミルボンといった国内ブランドから、アメリカ在住時代のマークジェイコブスやカルバンクラインまで、数々の有名ブランドのクリエイティブを手掛けてきた。
東海林氏はまず、独立したデザイン会社の立場から、外部パートナーとしてクライアントとどう協業し、優れたコマーシャルワークを生み出すかを語った。
「優れた商業デザインは、クライアントとクリエイターの信頼関係と正直な対話、協業から生まれる“ケミストリー(化学反応)”です。どちらかが欠けてもダメ。ロジックやマーケティングプランはもちろん重要ですが、それを直感的な『好き』とか『感動体験』まで昇華させるのが、私たちクリエイターの役目だと考えています」
また、15年に及ぶニューヨークでの経験にも触れ、労働ビザの取得や英語の壁、マイノリティであることの苦労といったリアルな体験を共有。「外国で住む権利も働く権利も、当たり前ではなく“獲得するもの”」という言葉は、グローバルな活躍を目指す学生たちに重く響いたことだろう。
最後に、東海林氏はパッケージデザインの本質をこう表現した。
「パッケージは“小さな宇宙”だと思っています。お客様が手に取り、触れ、使ったその瞬間から、数ヶ月にわたる顧客との密接な旅路が始まる。私たちは、その旅の元になる乗り物(ビークル)をつくっているのです」
講演後も学生が詰めかけ質疑応答が続いた









