グローバル市場の確実な獲得とLTV最大化戦略:unbotとファンケルの取り組み

「宣伝会議サミット/環境ビジネス・カンファレンス in Nagoya」が2025年12月5日、名古屋で開催され、企業の持続的成長の鍵となる二つの戦略、すなわちグローバル市場の確実な獲得と既存顧客のLTV(顧客生涯価値)最大化について掘り下げた議論が展開された。
 
まず、unbot(アンボット)の福積亮氏が登壇し、政治的影響が懸念される中国市場における最新のインバウンド状況を分析し、「旅マエから旅アト」まで一気通貫で成果にコミットするデータドリブンな戦略を解説した。続いてファンケルの村岡健吾氏が、新規顧客獲得コスト高騰の課題に直面する中、従来の「バケツ理論」から脱却し、顧客を「主語」としたメンバーズサービスのリニューアルやデータ統合を通じてLTVを最大化する戦略を詳述した。

中国インバウンド市場のリアルとは

unbotは2014年設立のデジタルマーケティング企業であり、「日本の良いモノとコトを世界へ」というミッションを掲げている。福積氏は、中国での累計滞在年数が11年に及ぶなど、中国市場に精通している。祖業である中国でのEC支援事業では年間流通総額(GMV)が約500億円を超え、この売上へのコミットメントの精神がインバウンド事業にも強く反映されている。

写真 講演の様子

講演の主要なテーマは、盛り上がり続けるインバウンド市場において、ブランドが取るべき実効性のある施策と、それを支える組織構築である。2025年1月〜9月実績で訪日外客総数3165万人のうち、中国は748万人でトップを占めており、消費総額でも中国が地域別ランキングで1位(3574億円)となっている。特に訪日中国人の買い物代は1620億円で1位であり、化粧品・香水(購入者単価約4.1万円)や衣類(約5.2万円)が上位を占めている。

福積氏は、政治的影響が懸念される中、現在進行中のインバウンド案件数十件のうち、中国本土で施策を停止または延期したのはわずか2社に留まっており、大部分の企業は計画を続行していることを明かした。団体旅行客は減少傾向にあるが、旅行客の90%を占める個人旅行客(FIT)への影響は大きくないと分析されている。また、中国国内のEC運用においても日本製品やブランドへのネガティブコメントが「一切ない」状態が続いており、政治と消費行動が切り離されている傾向が見られるとの見解を示した。

「旅マエ・旅ナカ・旅アト」一気通貫戦略

unbotの戦略は、単なる認知拡大ではなく、売上実績を追求する「リテールハック」の思想に基づいている。この戦略は、施策と売上の相関分析を10数年に渡り研究している分析チームに蓄積された1000万人を超える中国人購買データによって裏付けられており、訪日外客の行動パターンや趣味嗜好を高い解像度で分析することが可能である。

unbotは、インバウンドの全ジャーニーをカバーするサービスを提供しており、「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」一気通貫で支援している。具体的な施策としては、ジオマーケティングも強みの一つ。これは、訪日外客の趣味嗜好やデモグラに合わせた細かいセグメント設計による広告配信が可能となっている。例えば、来日前(旅マエ)の中国在住で、日本に来る予定があり、先月55万円をモバイル決済で使い、猫を飼っているXX化粧品ブランドをブラウザで検索をしたことがある26歳の女性」といった詳細なセグメントを抽出して配信が可能である。

さらに、国内リテール売上に直結させるため、国内の流通チャネルとの連携が非常に強く、販売店舗での入店施策、販売員教育、VMD、棚確保、店頭での消費者インタビューといったリテール業務のフルフィルメントまでを可能にしている。また、外国人の宿泊率が80%を超える国内の宿泊施設の客室を8000室以上確保し、その対象宿泊施設内にブランドや商品を露出・体験を促すプロダクトプレイスメント的な施策も展開しており、体験を通じた購買を誘発している。

写真 講演の様子

成果の可視化と組織構築、今後の展望

unbotが支援するクライアントの事例では、施策の実施から売上増加に直結する高い効果が確認されている。あるスキンケアブランドでは、支援開始後、免税売上が13倍、40倍になった事例もある。これは、施策のコストやインフルエンサーからのエンゲージメント総数を、実際の店舗売上(免税売上)と紐づけて分析することで、勝ちパターンを高い精度で特定できているからである。

写真 講演の様子

インバウンド対策は、多くの企業で「誰が担当するのか」「どの予算を使うのか」という組織上の課題に直面しやすい。unbotでは、この組織の問題を解決するため、クライアントオフィスへの人材常駐(ハンズオン支援)も行い、社内での意思決定や戦術実行をサポートする体制を敷いている。

福積氏は今後の展望として、政府の掲げる訪日外客数6000万人、消費額15兆円(2030年目標)という目標について、民間と政府が一体となれば達成確度は低いものではないと見ており、データ活用によるさらなる市場拡大を目指す方針だ。

市場環境の激化とLTV戦略への転換

ファンケルは、連結売上高1108億円の過半数(51.5%)を通信販売(EC)が占め、化粧品事業(54.6%)と健康食品事業(40.1%)を主軸とする中価格帯メーカーである。村岡氏は、新卒で入社後、広告宣伝や通販営業部門を経験し、現在は通販営業本部の本部長を務めている。

写真 講演の様子

ファンケルが直面した最大の課題は、従来の「バケツ理論」(入口で大量に新規顧客を獲得し、定期購入へと誘導するモデル)に基づくビジネスモデルが通用しなくなったこと。この背景には、次の二つの要因がある。

1. 広告効率の悪化: インターネット広告費が年々伸長し、ECにおける新規顧客獲得コスト(CPA)が過去5年間で約2倍に高騰した。
2. 情報飽和: SNSの利用人口の増加に伴い、世の中の流通情報量が膨張し、企業の情報到達性が低下した。

この環境変化に対応するため、ファンケルは戦略を転換し、「1人のお客様とこれまで以上に長いお付き合い」を目的とするLTV(顧客生涯価値)の最大化に焦点を当てることとした。

顧客を「主語」とする体験設計

ファンケルは、デジタル活用によるLTV最大化を3つのステップで実行している。

最初のステップである「量の獲得」では、自社通販(EC)に加え、外部通販(楽天、Amazon、Qoo10など)をデジタル上で展開し、の購入者を獲得することで顧客接点の「カバー力」を担保している。また、紙の美容情報誌(毎月70万部)も活用することで、デジタルと紙を組み合わせた総括的なコミュニケーションによって多重的な顧客接点とセグメントごとのコミュニケーションを実現している。

次のステップである「質の向上」では、顧客の購買データ(受注件数700万件以上)や行動データ、そしてコストデータを統合したデータ基盤を活用し、顧客の解像度を上げ、パーソナライズされた提案と効率的な運用を実現している。

写真 講演の様子

この戦略の核心は、2025年4月に実施したメンバーズサービスのリニューアルにある。このリニューアルでは、従来の「購入金額」(経済合理性)だけでなく、「ファンケルとのつながり」や「顧客行動」をステージ判定に反映させる設計を重視した。例えば、容器回収への参加、Webサイトでのコンテンツ閲覧、店舗でのカウンセリング利用といった行動がロイヤリティスコアに反映される。

さらに、LTVの高いロイヤル顧客に対しては、経済合理性(ポイント付与)ではなく、情緒的な体験価値の提供を重視している。具体的には、非公開寺院での呼吸法レッスンやパーソナル顔タイプ診断といった特別な体験イベントを通じて、ファンケルへの愛着を深めている。

LTV 30%アップの成果とデータ基盤の深化

ファンケルは、デジタル戦略の成果として、過去3年間でLTVを30%アップさせることに成功している。これは、顧客獲得コストが高騰する中でも、既存顧客との関係性を深化させ、顧客の「買い続けたい」という気持ちに応える仕組みが機能した結果である。

今後の戦略では、デジタルを単なる効率化のツールではなく、「顧客価値を最大化する手段」であると定義し、商品価値と顧客体験価値の「掛け算」でブランドを強化する方針を示した。これまでの通販チャネルの枠を超え、全チャネルの統合(オムニチャネル化)を目指す。

写真 講演の様子

データ基盤の進化においては、顧客の属性、購買、行動データに加え、コストデータを紐づけて統合する取り組みを今年度実施している。この統合により、「誰が、どうやって、いくらかかったか」までを把握し、収益領域の最適化(顧客別PL化)を推進していくことを目指している。最終的には、すべてのチャネルを跨いだ体験の深化(OMOジャーニー設計)を通じて、お客様一人ひとりに最適な情報・体験を提供し、「デジタルで買い続けたくなる仕組み」を確立していく構想である。

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