福岡で2025年12月12日に開催された「宣伝会議サミット/環境ビジネス・カンファレンス in Fukuoka」で、データとAIを活用した顧客体験(CX)の変革をテーマにした2つのセッションが行われた。
前半は、創業60周年を迎えるキューサイの石川順朗氏が登壇し、従来の通信販売モデルから脱却し、AIを活用したウェルエイジング支援企業へと生まれ変わるための新サービス「myme(マイミー)」の全貌を語った。後半は、ピンタレスト・ジャパンの井上英樹氏とFORVの堀切達矢氏が登壇し、アパレルECにおけるビジュアル探索プラットフォーム「Pinterest(ピンタレスト)」の活用事例を紹介。AIによる広告運用の自動化と「ストック型」プラットフォームの特性を活かし、リソース不足を解消しながら高ROASを実現する戦略を解説した。
「青汁」の会社からの脱却と構造改革の現在地
キューサイの石川順朗社長は、ソニーやアマゾンジャパンなどでのオペレーション経験を経て、2022年に同社に入社し、2025年から現職を務める。同社は1982年にケール青汁の販売を開始して以来、ヘルスケア・スキンケア事業を展開してきたが、石川氏は「ウェルエイジング(年齢を重ねることを前向きに捉える)」を企業ミッションに掲げ、単なる通販企業からの脱却を図っている。
2022年度からの中期経営計画に基づく取り組みで、インフォマーシャルの効率化や定期購入の継続率向上により収益性は改善したものの、主力商品(コラリッチ等)への依存や、マルチプロダクト・マルチチャネル化の遅れ、データ統合の不備といった課題が浮き彫りになった。
石川氏は、今後の成長のためには「マーケティングシフト(顧客思考への転換)」、「CX×DX シフト(データ統合とAI活用)」、「投資構造シフト(長期的視点)」の3つの変革が必要であると強調した。その核となるのが、従来の「単品通販モデル」から、顧客データとAIを活用した「ウェルエイジング支援プラットフォーム」への進化である。
社会課題「セルフエイジズム」と新サービス「myme」
キューサイが着目した社会課題は「セルフエイジズム」である。これは「もう年だから」と自らの限界を決めつけ、行動を制限してしまう心理状態を指し、これによる経済損失は年間約3.8兆円にのぼると試算されている。石川氏は、人が変わりたいと思いながらも変われない原因を「未来の自分を他人のように感じてしまい、当事者意識が持てないこと」にあると分析した。
この課題を解決するために開発されたのが、2025年10月にローンチされた新サービス「myme(マイミー)」である。
「myme」は、LINE上で完結するサービスであり、「はかる・わかる・かわる・つづける」の4つのステップで構成されている。
• はかる:医師監修のアンケート結果に基づき、自身のエイジング進行度を提示する。
• わかる:最大の特徴である「未来の自分」が登場し、対話を行う。単なる数値結果の提示ではなく、「なぜその習慣が必要か」を未来の自分が語りかけることで、感情的な納得感を生み出す。
・かわる:いきなり高い目標を掲げるのではなく、「0円から始められる小さな習慣(例:1日1分の足踏み)」を提案。
・つづける:未来の自分(AI)による習慣化のコツやフォローアップで行動変容を促す。
「共創プラットフォーム」としてのビジネスモデル
「myme」は単なる健康管理アプリではなく、企業とユーザーをつなぐ「共創(Co-Creation)プラットフォーム」として設計されている。ユーザーにとっては自分に合った商品やサービスと出会う場であり、参画企業にとっては、従来アプローチが難しかった「健康・美容意識の高い層」への接点となる。このプラットフォームの強みは以下の3点にある。
1. 新たな顧客接点の創出:従来の広告では届かない層に対し、ウェルエイジングという文脈でアプローチできる。
2. 自然な購買動機の形成:AIとの対話の中で「今の自分に必要だ」と納得した状態で商品が提案されるため、押し売りではなく「共感」に基づいた購買が生まれる。
3. 高速なテストマーケティング:ユーザーの行動データや属性データを取得できるため、新商品の受容性検証やターゲティングの最適化がスピーディーに行える。
現在、食品、運動、美容など17社のパートナー企業が参画しており、将来的には300社規模の「ウェルエイジング経済圏」の構築を目指している。石川氏は個人の変化が社会の変化につながり、年齢を理由に諦めない世界を実現したいと締めくくった。
「検索・ソーシャル・コマース」の交差点にあるPinterest
本セッションでは、ピンタレスト・ジャパンの井上英樹氏が、複雑化する消費者のショッピングジャーニーにおけるPinterestの独自性を解説した。現代の消費者は、SNS、検索エンジン、比較サイトなど多様なタッチポイントを行き来し、「決断疲れ」を起こしている。その結果、EC サイトのカゴ落ち率は約70%にも達している 。Pinterestは、画像を収集・整理するプロセスを通じて、ユーザーに「自分にぴったりだ」という「納得感」を提供し、購入への最後の一押しをする役割を果たしている。
Pinterestの最大の特徴は、「ヒト軸(誰が発信したか)」ではなく「モノ・コト軸(何に関心があるか)」でつながるプラットフォームである点だ。また、コンテンツの寿命が長い「ストック型」のメディアであり、投稿の半減期(エンゲージメントが半分になるまでの期間)は他SNS が数分〜1日程度であるのに対し、Pinterestは約4ヶ月と圧倒的に長い 。これにより、過去の投稿が資産として蓄積され、長期的な流入が見込める。
アパレルブランド「USG」の課題とPinterest活用
続いて登壇したFORVの堀切達矢氏は、同社が運営するアパレルECストア「USG(US ガール)」での活用事例を紹介した。
USGは「海外ガールのようなトレンドファッション」をコンセプトに、20〜30代のトレンドに敏感な女性をターゲットとしている。堀切氏が抱えていた課題は以下の3点だった。
1. リソース不足:少人数体制のため、広告運用に工数をかけられない。
2. 媒体の偏り:Meta広告(Facebook/Instagram)に依存しており、新たなリーチ獲得手段が必要だった。
3. ブランドイメージの維持:安売り訴求ではなく、ブランドの世界観を伝えられる媒体を探していた。
これらの課題に対し、PinterestのAI自動化ソリューション「Pinterest Performance+(ピンタレスト パフォーマンスプラス)」を導入した。これは、ターゲット設定や入札などをAIに任せることで、運用工数を最小化しつつ成果を最大化する機能である。
AI活用による劇的な成果と「広告=コンテンツ」の強み
2025年のキャンペーンにおいて、「Pinterest Performance+」を活用した結果、劇的な数値改善が見られた。
• CPM(インプレッション単価):96%削減
• CPA(獲得単価):32%削減
• ROAS(広告費用対効果):238%(前年比 1.5 倍)
特筆すべきは、当初ターゲットとして想定していなかった「男性ユーザー」や「Z世代」へのリーチである。AIが自動で最適化を行った結果、購入者の20%が男性となり、これまで取りこぼしていた「プレゼント需要」などの潜在層を開拓することに成功した。また、18〜44歳の層においても、他SNS媒体と比較して圧倒的に低いCPMと高いROASを記録した。
Pinterestにおいては「広告はコンテンツ」として受け入れられる。ユーザーは能動的にアイデアを探しているため、文脈に沿った広告は「邪魔なもの」ではなく「有益な情報」として好意的に見られる傾向がある。堀切氏も、特別な広告用クリエイティブを作り込むのではなく、サイト内の商品画像をそのまま活用する「ショッピングカタログ」形式で高い成果が出たと語る。 今後は予約型広告「プレミアスポットライト」による認知拡大や、季節モーメント(バレンタインや新生活など)に合わせた施策を強化し、ブランドのさらなる成長を目指すとしている。
1 Baymard Institute、「49 Cart Abandonment Rate Statistics 2025」(2025年)
2 SCOTT M. GRAFFIUS, 2024年1月, “Lifespan (Half-Life) of Social Media Posts: Update for 2024”
3 FORV調べ、 2025年1月1日~12月5日) のキャンペーンデータから ROAS を算出、日本
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