※当記事の内容は2025年6月時点のものです。
綺麗な放物線を描いた白球が、甲子園のスタンドに突き刺さる。土壇場での逆転ホームラン。
4万人の阪神ファンが総立ちで喜び合う中で、その輪に入らずにグラウンドに背を向け、真剣な眼差しで腕を振り上げる人たちがいる。阪神タイガースの私設応援団・阪神伍虎会(はんしんごとらかい)の団員たちだ。
彼らは観客席の先頭に立ち、太鼓やトランペットを鳴らし、時には声を張り上げて、阪神ファンの声援を指揮する。球場のボルテージを引き上げ、一体感を演出する、試合応援には欠かせない存在だ。
団員の中でも、一際存在感を放っているのが三橋匠(みつはしたくみ)さん。身長190センチの彼は、その巨体を存分に活かした迫力あるジェスチャーと、堂々とした立ち振る舞いが印象的な、聞かずとわかる応援団長である。
三橋さんは点が入っても喜びを表現することはない。すぐに周りの団員に指示を出し、観客の指揮に努める。
「歓声をまとめることで精一杯ですし、それが僕らの仕事なので。でも内心では、めっちゃガッツポーズしていますよ」
スタンドの先頭からしか見えない景色もある。
「点が入った時は、スタンド全員の顔がパッと笑顔になって、地鳴りのような歓声が起こるんです。先頭からはそれが全部見渡せて。数万人が立ち上がって喜んでいる、あの光景は本当に絶景なんです。それに、甲子園の大歓声を指揮する気持ちよさは、一度味わうと忘れられません。それが応援団の醍醐味かもしれませんね」
完全ボランティアの「私設応援団」
日本のプロ野球は、私設応援団が各球団の応援を指揮し、試合を盛り上げるという風習がある。団ごとにスタイルは異なるものの、鳴り物を使い、観客の声援を統率してグラウンドに届けるのが使命だ。
私設応援団は、球団に雇用された人間が運営している団体ではない。応援チームの試合を盛り上げようと、有志のファンが立ち上げた団体である。ファンなら誰でもできるわけではなく、日本野球機構(NPB)から特別応援許可を得た団体とその団員しか活動を認められない。
また、団員は規程により、応援活動によって収益を得ることは禁止されているので、球団からも観客からも報酬を受け取ることはできない。
彼らは用具代、遠征代だけでなく、チケット代も自費で支払って、完全ボランティアで活動をしているのだ。
「正直、財布事情は厳しいですよね。僕は遠征にも頻繁に行くので、お金を削れるところは削らないといけないです。この前は時間があったので、下道で7時間半かけて広島まで向かいました」
そう話す三橋さんを含め、団員の大半は、仕事をしながらプライベートの時間とお金を切り詰めて、応援活動に取り組んでいる。
活動は基本的に自分の居住エリアが中心となるが、時には遠征に行くこともある。三橋さんは阪神タイガース応援団の西日本応援統括も兼任する幹部なので、遠征の数も凄まじい。


