広告宣伝から共創へ オリンピック「TEAM JAPAN」パートナーが目指す社会還元

日本オリンピック委員会(JOC)が展開する「TEAM JAPANパートナーシッププログラム」は、単なる資金提供の枠組みを超え、スポーツの価値を社会に還元するための共創プラットフォームへと進化を遂げている。2021年の東京オリンピックを契機に、企業がスポンサーシップに求める価値は広告宣伝効果から社会課題解決への貢献へと大きくシフトした。JOCマーケティング部担当部長の脇本昌樹氏への取材に基づき、その思想と実態を明らかにする。

オリンピック権利の構造とマーケティング

JOCにおけるマーケティングとは、日本国内におけるオリンピックに関するマーケティング権、および「TEAM JAPAN」の権利、選手の肖像権やブランドロゴなどの拡販活動を指す。国内でオリンピックに関連するマーケティング活動はJOCが独占的に行っており、企業が関与するにはJOCと契約するか、国際オリンピック委員会(IOC)とワールドワイドの契約を締結するかの二通りしかない。

JOCのマーケティングプログラムは、「パートナーシッププログラム」と「ライセンシングプログラム」の二本柱で構成される。後者は公式ライセンス商品を製造・販売するもので、JOCが在庫リスクを負わない一方で収益規模は限定的である。そのため、収入の多くはスポンサーシップにあたるパートナーシッププログラムから得られており、その収益は選手強化や事業費、国内競技団体(National Federations=NF)への強化費用として配分される循環構造となっている。

このプログラムを牽引する脇本氏は、大学院卒業後にJOCへ入職し、2012年からマーケティング業務に従事。2014年から2018年にかけては東京2020大会組織委員会へ出向し、マーケティングプログラムの立ち上げにゼロから携わった経験を持つ。

「共創」へとシフトするパートナーシップの価値

かつてのスポーツ協賛は、大会会場での看板露出や自社製品の導入といった、認知度向上や販売促進を主目的とする活動が中心であった。しかし、脇本氏は、東京2020大会やコロナ禍を経て、企業がスポーツに協賛する目的が大きく変化したと分析する。現代のパートナーシップでは、「協賛したことで、自社の企業課題をスポーツやTEAM JAPANがどれだけ解決してくれるのか」という視点が重視されるようになった。

具体的には、企業からアプローチが難しいスポーツのファン層とのコミュニケーション機会の創出や、社員のエンゲージメント向上といったインナーブランディングへの貢献などが期待されている。もはや、単なる広告宣伝活動ではなく、パートナー企業とJOCが共に社会的な価値を創造する「共創事業」としての側面が強まっている。

こうした変化に対応するため、JOCは現在のプログラムから、パートナーとして求める企業像をWebサイト上で明文化した。そこでは、「TEAM JAPANの価値向上とオリンピック・ムーブメントの推進にともに取り組んでいただけること」「JOC Vision 2064に共感し、スポーツを通じた社会課題解決に寄与する活動をともに推進していただけること」などが掲げられており、価値観の共有がパートナーシップの前提となっていることがうかがえる。

JOC Vision 2064が示す、スポーツの力を社会の力へ

東京2020大会を機に、JOCは「JOC Vision 2064」を策定し、組織として大きな変革期を迎えている。これまでの歴史や伝統を「守る」姿勢から、スポーツが社会の一員として何を貢献できるかを能動的に考える「攻め」の姿勢へとシフトした。このビジョンを実現するための中期計画では、中心的なメッセージとして「アスリートとともに スポーツの力を 社会の力へ」を掲げ、「スポーツの価値を守り、創り、伝える」活動を推進している。

このビジョンの下、JOCは社会貢献活動を積極的に展開している。例えば、TEAM JAPANのシンボルアスリートである阿部一二三・詩選手と共に小学生向けの柔道大会「ABE CUP」を創設したり、上野由岐子選手とソフトボールをテーマにしたイベント「Softball Festa」を開催したりと、これまで競技団体が単独で行ってきた領域にも踏み込んでいる。あくまで競技団体ができないところをサポートし、スポーツ界全体へ波及することを目的としていると脇本氏は繰り返す。

また、2025年からのプログラムでは、企業からの要望に応え、JPC(日本パラリンピック委員会)の権利をセットで販売する。これは契約手続きの簡素化という実務的なメリットに加え、オリンピック日本代表とパラリンピック日本代表の双方を支援できるようになったことで、企業が社内で協賛の承認を得やすくなり、さらに両団体のエンブレムを一体的に使用できることによりアクティベーションのバリエーションが広がるという効果もある。こうした取り組みは、共生社会の実現に向けた取り組みの一環として位置づけられている。

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