生成AIが商品やサービスを数件に絞り込む時代、ブランドはAIの回答に入るだけで選ばれるのか。XAホールディングスが8月4日に開催したワークショップでは、AI上での「語られ方」を測るだけでなく、生活者の記憶に残る体験や、社内外でぶれないブランド言語までを一体で設計した。講演と参加者の実践から、AI時代のブランド実装に必要な視点を追う。
AIはブランド運営を代替するのではなく、意思決定を速くする
冒頭、XAホールディングス代表取締役CEOの河野貴伸氏は、AIが購買行動の入口になりつつあると説明した。これまで生活者は広告で商品を知り、検索結果の一覧を比較して購入していた。これからは、まずAIに相談し、提示された3〜5件ほどの候補を検索やSNS、ECサイトで確かめて選ぶ。河野氏は、AIが提示する候補リストを「新しい棚」と表現した。
XAホールディングス代表取締役CEOの河野貴伸氏
ただし、AIへの対策を従来のSEOの延長で捉えるだけでは不十分だという。AIはキーワードの数だけでなく、文脈や第三者の言及、利用者ごとの条件を踏まえて回答する。しかも回答は質問の仕方や時点、利用者の履歴によって揺れる。河野氏は、1回の回答に一喜一憂せず、複数の質問とAIを使って「語られ方の分布」を把握する必要があるとした。
対談には、アパレルブランド「MNMM(ミニマム)」を運営する金子洋平氏が登壇した。金子氏はヤプリの執行役員CCO(Chief Communication Officer)を務めながら、夜間や週末にMNMMを1人で運営している。企画、文章、ビジュアル制作、競合調査など幅広い業務にAIを用いる一方、何をつくるか、ブランドらしいか、顧客にどのような温度で届けるかは人が決める。
MNMMファウンダー/ヤプリCCOの金子洋平氏
金子氏が重視するのは、AIにブランドの好みや禁止表現、目指すブランドの例を覚えさせ、対話を重ねることだ。「AIは代替ではなく、思考を整えるための補助線」と位置付ける。AIが生み出した文章や施策案にも、自身が消費者として得た体験を最後に加える。オンライン専業だからこそ、購入後のメールや開封時の印象まで含め、顧客がブランドを思い出す接点を設計しているという。
自社ブランドをAIに聞いてみた ワークで浮かび上がった “伝わらなさ”
会場では、参加者が手元のスマートフォンやPCを使い、自社ブランドについてAIに尋ねた。「自社カテゴリーのおすすめブランドを3つ、理由付きで教えて」「自社はどのようなブランドか。特徴と評判を教えて」「自社と競合のどちらが想定顧客に向くか」。質問すると、候補に出ない、特徴がずれる、望ましい説明にならないといった結果が相次いだ。
ここで注意が必要なのが、普段から業務で使うAIである。利用者や勤務先の情報を記憶している場合、自社に好意的な回答を返しやすい。河野氏は、客観的な現状を見るには、普段使っていないAIも併用するよう促した。診断では、質問を「カテゴリー」「自社」「競合」の3対象と、「想起」「比較」「検証」の3つの型に分けた。
さらに河野氏は、5本の診断プロンプトを「PAFEX」として提示した。Pは候補率(Presence)、Aは正確性(Accuracy)、Fは語られ方(Framing)、Eは根拠(Evidence)、Xは本音を引き出す敵対的な質問である。例えば「自社を勧めないほうがいい人は」とあえて尋ねると、過去の炎上や根強い誤解など、表面上の回答に現れにくい情報が見える。耳の痛い結果も、FAQや誤解訂正の材料になる。
このうち定点観測に用いるのが、Xを除いた「PAFE」の4指標だ。想定した質問のうち何割で自社名が出るか、事実や強みが正しく説明されるか、推薦理由が自社のありたい姿と一致するか、引用元が望ましい文脈や媒体かを同じ質問で毎月確認する。回答文だけでなく、参照されたURLや媒体名を記録することで、何を直し、どの情報源を増やすべきかが見えてくる。
参加者はチームに分かれ、他社のブランドを題材に診断した。自社をよく知る担当者のAIではなく、同じテーブルに座った別企業の参加者のAIを使うことで、一般の生活者に近い状態を再現する狙いだ。格安SIMの事例では、独自のユーザーコミュニティーよりも通信速度や品質への不安が強く語られた。食品宅配サービスの事例では、企業が示す実績だけでなく、アフィリエイト系メディアなどで語られる生活者目線の評価も、ブランドの特徴として取り込まれていた。企業が伝えたい価値と、AIが外部情報から組み立てる印象のずれが可視化された。
AIが重視する “第三者の言葉”
PAFEXで特に重要なのが、Eの「根拠」である。AIの回答は、学習済みの知識に、その時点のWeb検索と引用を組み合わせてつくられる。河野氏によると、比較・ランキング記事、レビューや口コミ、業界メディア・専門記事、事典・公的情報、オンラインコミュニティーなどが回答の材料になる。なかでもAIは専門性や信頼性を重視し、業界メディアや専門記事、論文、事典、公的情報を引用しやすい傾向があるという。BtoB領域では、専門的な第三者がどの文脈でブランドを語っているかが、推薦理由を左右する。
そのため、河野氏は自社サイトを整えるだけでなく、「誰に語ってもらうか」まで設計する必要があるとした。プレスリリースで事実を明確に示し、業界メディアや専門記事で第三者の文脈から言語化されることが、AIにとっての権威づけになる。自社サイトでの一方的な説明ではなく、信頼できる外部媒体に同じ定義や根拠が蓄積されることで、AIが候補に挙げる際の説明も安定していく。
二つ目の関門は、人の記憶 “名前を隠してもわかるか”
AIの候補に入ることは、選ばれるための第一関門にすぎない。河野氏は、第二の関門として「人の想起集合」を挙げた。AIが推薦しても、生活者が聞いたことのないブランドをそのまま購入するとは限らない。最後に効くのは、特定の状況でそのブランドを思い出せるかどうかである。
起点となるのが、生活者があるカテゴリーの利用や購入を考え出すきっかけ、すなわちカテゴリーエントリーポイントだ。いつ、どこで、誰と、誰のために、何の目的で、どんな気分のときに必要になるのかを具体化する。例えば「金曜の夜、頑張った自分に飲むビール」のように、映像が浮かぶ粒度まで絞り込む。発生頻度が高く、競合がまだ占有しておらず、自社が選ばれる必然性を一言で説明できる瞬間が、狙うべき “記憶の空き地” になる。
その瞬間にブランド名を呼び起こす手がかりが「ブランドコード」である。色、言葉、形、音、接客の所作、商品の開封体験など、名前を隠してもそのブランドだとわかる要素を棚卸しする。河野氏は、情報が増えAIの推薦が一般化するほど、人の五感に直接作用する要素が重要になると指摘した。
全部門の説明を1枚に集約 ブランドコア・シートをつくる
後半のワークでは、参加者が「ブランドコア・シート」を作成した。経営陣、マーケティング、営業、店舗などで説明がばらつけば、AIには同じ企業が別々の存在のように見える可能性がある。そこで、誰に、どのような状況で、何を提供するブランドなのかを一文で定義し、各部門が参照する単一の情報源をつくる。
| 項目 | 整理する内容 |
| 一文定義 | 誰の、どの状況に、何を提供するカテゴリーか |
| 提供価値 | 企業の言葉ではなく、顧客の得る価値 |
| 根拠・事実 | 数字、受賞歴、導入実績、年数など引用可能な情報 |
| 想起句 | ブランドを思い出してもらう短い言葉(10文字級) |
| FAQ | 顧客がAIや検索で実際に尋ねる質問と模範回答 |
| NG表現・誤解訂正 | 避ける表現と、広がっている誤解への訂正 |
| 比較スタンス | どこで勝ち、どこは競合に潔く譲るか |
ブランドの一文定義には、主体、カテゴリー、差別化要素、数字を盛り込み、切り取っても意味が通る形にする。その上で、AIに引用されやすくするため、結論を先に置き、一文一義を意識する。商品名やサービス名、数字の表記も統一し、FAQなどの見出しは疑問文にする。ただし、自社サイトを整えるだけでは足りない。経営陣や現場などで説明がばらつけば、AIによる理解が薄まり、引用されにくくなる。社員が同じ一文定義やスローガンを共有し、PR、営業資料、店舗、SNSなどの各接点で、同じブランドの核から発信することが重要だと河野氏は説明した。
完成したブランドコア・シートは、保管するだけの資料ではない。記入した内容は、そのままWebサイトの会社概要やFAQ、構造化データ、営業時の第一声、プレスリリースのテンプレート、AI応答などの原稿として活用できる。各接点が同じブランドの核を参照することで、部門ごとの説明のばらつきを抑え、人にもAIにも一貫した情報を届けられるようになる。
AIに届く情報と、人に残る体験を循環させる
最終段階では、Web・EC、店舗・現場、営業資料、イベント、SNS、PR・広報といった接点を「AIが抽出できる形」と「人の記憶に残る形」の二つのレンズで見直した。AIに対しては、一文定義、数字や受賞歴をまとめたページ、構造化されたFAQ、第三者メディアによる言及などが手がかりになる。人に対しては、ブランドコードや接客、開封体験、物語などを一貫して届ける。
ワークショップの最後に河野氏は「語られない体験は、AIには存在しない」と強調した。良い体験を生み出すだけでなく、顧客が言及し、第三者が取材やレビューで言語化し、信頼できる情報として引用されることで、AIもその価値を語れるようになる。一方、AIに読みやすい説明だけを増やし、人の心に残る体験を欠けば、候補の中で選ばれる理由がない。AIと人のどちらか一方ではなく、体験、言及、引用、推薦の循環を設計することが必要になる。
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