第2回では、見えない価値をビジネスDDによってどのように見極めるかを見てきた。では、その価値を実際の企業価値向上へつなげるには何が必要なのか。最終回となる第3回では、PMIを単なる統合作業ではなく、価値創造のプロセスとして捉える考え方を紹介する。
M&AでのビジネスDDの課題
M&AにおけるビジネスDDは、一般的に基本合意締結後、財務DDや法務DDと並行して実施される。これは、基本合意後に情報開示が本格化し、買収前に事業の実態を把握するためである。しかし、スモールM&Aでは、ビジネスDDの品質にはいくつかの課題がある。
第一に、ヒアリング対象が売り手企業の社長に限定されるケースが多いことである。M&Aは極秘で進められるため、幹部や従業員への聞き取りは難しく、社長の説明が唯一の情報源となる。その内容の真偽を十分に検証できないまま調査を進めざるを得ないことも少なくない。
売り手としては、会社を少しでも高く評価してもらいたいという心理が働くため、自社の強みを強調し、問題点を過小評価することもある。また、買い手側もM&Aが破談になることを懸念し、疑問点があっても深く踏み込めない場合がある。
一方、事業再生のビジネスDDでは、社長だけでなく幹部や管理者へのヒアリングも実施し、多面的な情報収集によって経営課題や社長の説明内容を検証する。この違いが、調査精度に大きく影響している。
第二に、売り手側のFAや仲介会社によって、調査時間や調査範囲が制限されるケースがある。売り手としては企業価値が下がったり、案件が成立しなくなったりすることを避けたいため、「オンラインで1時間のみ」といった条件でヒアリングを求められることもある。
このような制約の下では、企業の現状を把握することはできても、「なぜその状態になっているのか」という原因分析まで踏み込むことは難しい。結果として、企業の強みや課題を表面的に整理した報告書となり、買収後の経営改善へ十分に活用できないケースも少なくない。