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世界でビジネス展開する「琉神マブヤー」が沖縄経済を活性化

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地域の活性化、シティプロモーションにオリジナルのキャラクターを起用するケースは多いが、地域の人々に熱狂的に受け入れられてこそ成果が出るというもの。数ある「ご当地キャラクター」の中でも、沖縄から東京だけでなくアジアを見据える「琉神マブヤー」の取り組みに学びたい。

※本記事は月刊「広報会議」7月号(6月1日発売)の巻頭特集「住みたくなる、訪れたくなる街をつくる『シティプロモーション』」の掲載記事の一部です。

「琉神マブヤー」と「龍神ガナシー」

沖縄の平和のために戦う「琉神マブヤー」(右)と「龍神ガナシー」。ウチナーンチュ(沖縄人)に必要不可欠な7つのマブイ(魂)を守りながら、琉球に新たな帝国を築こうとする悪の軍団マジムンの野望を阻止するために立ち上がるというストーリー。

仮面をつけたヒーローが銀行のカウンターで「沖縄の大切なマブイ(魂)を預かってほしいんです」とポーズを決めると、窓口の女性がしっかりと手を握って応対する。「はい。かしこまりました!」――。

沖縄の地銀「琉球銀行」(那覇市)のテレビCMのひとコマだ。登場するのは、地元で大人気のキャラクター「琉神マブヤー」。CMでは、地域密着型で親しみやすい銀行であることを訴求している。

マブヤーを広告に起用しているのは琉球銀行だけではない。キャラクターの企画開発を手がけるマブイストーン(沖縄県豊見城市、「マブヤー企画」から社名変更)によると、「オフィシャルパートナー」と呼ばれるスポンサーは琉球銀行を含め10社に及ぶ。JAL傘下で沖縄便を主に運航する日本トランスオーシャン航空(JTA)や沖縄ホンダ、コンビニのローソン沖縄など大手も多い。沖縄伊藤園は地域限定で「マブヤードリンク」を販売するほか、ベネッセコーポレーションは子ども向け教材のプロモーションで、沖縄のみ自社キャラクター「しまじろう」ではなく「マブヤー」を起用しているという。

沖縄の文化を守るために戦う

ハブやマングースの悪役

悪役のキャラクターもどこか憎めない。

マブヤーはもともと男児向けの土産のキャラクターとして2008年に誕生した。当時、県内の観光土産品問屋から依頼を受け、外部スタッフとして企画にかかわったマブイストーンの古谷野裕一プロデューサーは「お土産のキャラクターは県外の人たちに訴えるのが役目といえますが、あえて県内の人たちに支持されるキャラクターを目指しました」と振り返る。県内での圧倒的な認知を獲得し、口コミの力で県外へ広げていく戦略だ。

沖縄方言のマブイ(魂)をもじったネーミングからもわかるように、マブヤーの魅力は、方言や県民性などのローカル色をふんだんに取り入れていることにある。魔よけで知られるシーサーをイメージさせるヒーローが登場し、沖縄の大切な文化や慣習を守るために戦うストーリー。すでに若年層には使われていないような方言をあえて使い、悪役もハブやマングースなど沖縄に生息する動物をキャラクター化したもので、どこか憎めない。敵を殺さず、許してしまう主人公のパーソナリティも当初から決めていたという。

地元で認知を高めるために、まずテレビ番組化を企画したほか、ショッピングモールやイベント会場などでヒーローショーを繰り広げた。

反響は予想以上だった。ヒーローキャラクターが子どもに人気を博しただけでなく、親の世代はコミカルな悪役に共感したり、方言がわかる祖父母にとっては孫との会話のきっかけにもなった。まさに「3世代に受け入れられるキャラクター」(古谷野氏)になっている。

アジア5カ国で映画公開 沖縄から「外貨獲得」へ

古谷野氏によると、当初から沖縄の活性化への貢献を見据えたビジネス拡大を見込んでマブヤーを育ててきたという。「もともと文化・芸能が盛んな土地である一方、第一次産業がほとんどありません。沖縄発のコンテンツで収益を挙げようと考えると、自然とこうしたビジネスに行き着きました」。

思い描いたステップはこうだ。第一段階として県内の認知を徹底的に普及させた上で、次は東京を中心に県外に広める。さらにその次は、コンテンツ産業として海外に「輸出」していくという流れ。

この計画はすでに進行している。マブヤーは映画化され、昨年10月の県内公開を経て、今年1月には全国公開を果たした。また、テレビは東京のローカル局「TOKYO MX」で放映され、首都圏でもじわじわ広がっている。

海外展開は東南アジアで進行中だ。映画はシンガポールやマレーシア、ブルネイ、インドネシア、タイでも公開されるほか、マレーシアでは現地の事業者にノウハウを提供してローカルヒーローを立ち上げる話を進めている。「沖縄でつくったものと現地のヒーローと両方で展開し、シナジーが生まれることも考えられます。こうした展開によって、沖縄にとって本当の『外貨獲得』につながります」と古谷野氏は期待を寄せる。今後はゲームなどデジタルコンテンツのロイヤリティ収益の拡大にも力を入れたいという。

ご当地ヒーローを立ち上げる狙いは何か

マブヤーの造形は、先輩格でもある秋田のご当地ヒーロー「超神ネイガー」を手がける海老名保氏が担当した。今やご当地ヒーローは、どの地方にもあると言えるほど広がっている。マブヤーを成功に導いた古谷野氏は、「(ご当地ヒーローは)『やり方』によってはうまく展開できる」としながらも、全国にヒーローが乱立する中で、「重要なのは戦略、つまり何を目的にしているのかだと思います。あとは本気度ではないでしょうか」と指摘する。

マブヤーが東京でどのように見られているのかを聞いたところ、「韓流ドラマのよう。国産にもかかわらず字幕も付いていますので。いわば『琉流』といったところでしょうか」と笑って応えた。