京都大学は7月31日、大学院薬学研究科の元教授・辻本豪三氏(59)が収賄の容疑で東京地検特捜部に逮捕されたことを発表した。同氏らが世話人となって主催した国際シンポジウムの経費を水増ししていた疑い。
ほかに逮捕されたのは、医療機器販売会社「メド城取」(東京都世田谷区)の社長木口啓司容疑者(62)ら、同社元営業部長の上田真司容疑者(53)。辻本氏は、物品納入の便宜の見返りとして、2007年9月~2011年6月にかけ、メド社が契約したクレジットカードを使い、飲食や商品購入などの代金約476万円をメド社に負担させたことや、2009年8月~2011年8月にかけて、本人や家族の海外旅行費用約146万円を負担させた疑いがもたれている。
メド社は、京大の入札で2007~2011年にゲノム(全遺伝情報)解析装置など少なくとも5件(計約2億4600万円)の納入を落札した。辻本氏はこれらの入札の一部で機器の必要な性能を決める「仕様策定委員会」の委員を務めており、その立場を利用してメド社側に有利な取り計らいをしたとみられる。
辻本氏はゲノム(全遺伝情報)創薬科学が専門。成育医療研究センター研究所の薬剤治療研究部長を経て2002年に京大に着任した。2010年4月、がんとアルツハイマー病の新たな診断や治療法の確立を目指すため、薬学研究科内に創設した「最先端創薬研究センター」のセンター長に就いていたが、家宅捜索後の6月28日付で大学を辞職。同氏が研究費を不正にプールしていた「預け金」は、少なくとも1億円を超えていたことが関係者への取材で明らかになっている。
京都大学理事・副学長(総務・人事担当)の塩田浩平氏は、「到底許される行為ではなく、誠に遺憾に思っております」と述べ、大学側としては、当局の捜査には全面的に協力し、その結果に基づいて厳正に対処する方針を示している。
絶えない研究費の不適正使用
2007年に当時早稲田大学の教授だった松本和子氏が研究費を不適正に使用した事件があり、学術関係者を中心に、大きな注目を集めた。その後、科学技術振興機構(JST)は防止策として(1)可能な限り経理事務を研究機関に一元化、(2)会計制度の周知・徹底、(3)研究費に関する透明性の確保などの方針を示した。ほかにも不正をふせぐための様々な対応がなされてきたが、研究費不正使用の事件は絶えない。今回の京都大学の辻本豪三氏の事件は、科学者コミュニティの自浄能力がなさを示したことになる。
大学関係者は、今回の京都大学の事件により、ただでさえ煩雑な研究費等の諸手続きが今後一層煩雑化する可能性が高いとみている。日本の科学コミュニティ全体の問題として、研究者の会計制度やコンプライアンスへの理解を根底から見直す必要があるのではないだろうか。
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