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「ソーシャルメディアは脳に悪い」は本当か?脳科学者の林成之教授が解説

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林成之 日本大学大学院総合科学研究科教授

ソーシャル・ネットワーク・サービス上にプライバシーをさらすことが子どもたちを犯罪などの危険にさらすとの危機感から、アメリカでは高校生にフェイスブックの使用を禁止する学校が増えている。また、脳やコミュニケーション能力が発達途上にある子どもたちがSNSを使うことは、望ましい成長を阻害するとの研究結果もある。水泳の北島康介選手らトップアスリートに「勝つための科学的な脳の使い方」をアドバイスしてきた脳科学者の林成之日本大学教授に、ソーシャルメディアの利点とリスク、そして対策を聞いた。

――昨年の東日本大震災では、携帯電話がつながらないなか、安否確認にツイッターが活用されました。フェイスブックの登録者数が9億人を超え、世界中の人々が便利さを享受する一方、脳科学の視点からはリスクも指摘され、アメリカでは高校生に使用を禁止するところも増えています。

ソーシャルメディアやSNSは言うまでもなく、情報収集や発信のツールとして、コミュニケーション・ツールとして、素晴らしいシステムです。「アラブの春」でも、ツイッターが活用され、民主化のうねりが一気に拡大しました。

しかし、脳科学の観点からみると、ソーシャルメディアはリスクも併せ持っていることを知っておいていただきたいと思います。

個人のレベルでは、子どもの頃からソーシャルメディアの世界につかりすぎることによって、リアルなコミュニケーション能力がきちんと養われなくなる可能性があります。集団レベルでは、ソーシャルメディア上に流れる偏った考え方やデマゴーグによって、多くの人が洗脳されるという危険性があることが指摘されます。ツイッターはアラブの民主化に重要な役割を果たしましたが、独裁者が使えば、人々を間違った方向に洗脳することも可能です。

ソーシャルメディアは本能と深く結びついている

生命を維持するために、人間の脳が何を望み、行動するのかを解き明かすのが「生体情報システム生命科学」*1です。

生体情報システム生命科学の研究で、これまでにわかってきたのは、人間の脳には、生命維持のための「本能」が7つあるということです。本能とは脳機能のベースとなる、脳がもつ力のことです。

脳神経細胞に由来する本能としては「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」という3つが備わっています。脳の組織に由来している本能としては「自己保存」「自我」「統一・一貫性」の3つ、そして脳の組織連合に由来する本能として「違いを認めて共に生きる」というものがあります。脳を支配する基本的な法則は意外にシンプルです。

人間は、脳神経細胞にある3つの本能をもとに社会システムを作り上げてきました。「生きたい」と「知りたい」という2つの本能が重なって科学を、「知りたい」と「仲間になりたい」は文化を、「生きたい」と「仲間になりたい」は宗教を生み出してきました。

ソーシャルメディアは、情報のやり取りを通じて、他者とつながっていくという特徴をもちます。これはまさに「文化」を生みだす本能の働きと一致するものです。つまり、ソーシャルメディアは人間の本能に従って生まれたITツールとも言えます。わずか数年のあいだに、世界中の人々がソーシャルメディアを介して活発にコミュニケーションをするようになったのは、このような脳の性質と深く結びついているためであるといえます。

*1 生体情報システム生命科学とは 
脳の知能・独創性・運動機能を高める原理と生命維持の調節機構を学習し、細胞レベルから臓器まで、生命に組み込まれた生命科学の情報システムを明らかにするとともに、実社会への応用を研究する学問分野。

脳は多数派の意見に洗脳されやすい

――コミュニケーション能力の発達が阻害される可能性や集団の洗脳の可能性が高まるリスクが生じるのはなぜなのでしょうか。

7つの本能のうち、ソーシャルメディアのリスクを考えるうえで欠かせないのが「統一・一貫性」です。これは、“脳の中の脳”といわれる前頭前野(記憶や感情の制御、行動の抑制など、さまざまな高度な精神活動を司る)が、情報の正誤を判断したり、物事の筋道を通したり、いわば「情報を理解する機能」の基盤となる本能です。

この本能に従って、人間は、周りの人と考えや行動を“そろえたがる傾向”があります。脳は「多数派の意見を正しい」と信じてしまうのです。

脳科学者が推奨するソーシャルメディアを正しく使うための3つの条件

林教授は、ソーシャルメディアのリスクを避けるための3つの条件をあげる。それは、「匿名禁止」「私的なコメントは1週間で消滅」「年齢制限」だ。

匿名の情報は、情報の真偽を確かめる術がなく、また発信する側もそのつもりがなくても無責任になるためだ。また、人間はときには感情的になってしまうこともあり、私的なコメントがいつまでも記録として残ることは好ましくないという。

さらに、中高生のうちからソーシャルメディアに夢中になることで、リアルなコミュニケーション能力が発達しなくなるリスクがあることから、年齢制限を設け、それが守られるような仕組みも必要であるという。

※詳細は『人間会議』2012年夏号(6月5日発売)「ソーシャルメディアの本質」特集でお読みいただけます。ご予約はこちらから。

林成之

林成之(はやし なりゆき)日本大学大学院総合科学研究科教授
1939年、富山県生まれ、日本大学医学部、同大学院医学研究課博士課程修了後、マイアミ大学医学部脳神経外科、同大学救命救急センターに留学。1993年、日本大学医学部付属板橋病院救命救急センター部長に就任。日本大学医学部教授、マイアミ大学脳神経外科生涯臨床教授を経て、2006年、日本大学総合科学研究所教授。2008年、北京オリンピックの競泳日本代表チームに招かれ「勝つための脳」=勝負脳の奥義について講義を行い貢献。著書に『解決する脳の力―無理難題の解決原理と80の方法』(角川書店)、『<勝負脳>の鍛え方』(講談社現代新書)、『脳に悪い7つの習慣』(幻冬舎新書)などがある。
『人間会議2012年夏号』
『環境会議』『人間会議』は2000年の創刊以来、「社会貢献クラス」を目指すすべての人に役だつ情報発信を行っています。企業が信頼を得るために欠かせないCSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。企業の経営層、環境・CSR部門、経営企画室をはじめ、環境や哲学・倫理に関わる学識者やNGO・NPOといったさまざまな分野で社会貢献を考える方々のコミュニケーション・プラットフォームとなっています。
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