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コラム

高広伯彦の“メディアと広告”概論

ソーシャルメディアの時代なので、クチコミマーケティングを再考しよう:6

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クチコミマーケティングとマーケターのモラル

みなさんしばらくぶりです。クチコミマーケティングに関する私の経験と知見をシェアする文章、ちょっと時間が空きましたが続きを以下に。

さて、クチコミのマーケティングを企画する際にもっとも重要なのは「マーケターのモラル(倫理観)」ではないだろうか(実際のところどんなマーケティングコミュニケーションの施策であっても、マーケティングモラル/広告モラルというものが必ず必要ですが)。特にクチコミマーケティングというのは、消費者(ユーザー)の「クチ」を借りるマーケティングを目指すわけなので、普通以上に慎重にならなければならない。ただ残念ながら、クチコミマーケティングサービスの提供企業の利益が優先される一方、米国のクチコミマーケティング協会 WOMMA(Word of Mouth Marketing Association)が示してるような倫理協定について、日本ではまだまだ浸透していない。

WOMMAではサイトの中に“Ethics”というコーナーを設けて、クチコミマーケティングを仕掛けるマーケターたちへ、警鐘と適切な運用を呼びかけているが、この背景には連邦取引委員会FTC (Federal Trade Commission)が消費者保護法の観点から、消費者を騙すような広告手法、(とりわけ最近はデジタルテクノロジーが進んだ結果、取得できるデータが増えたので)消費者のプライバシーの保護などを観察対象にしていることと連携している。政府レベルでの消費者視点での取り組みが業界内での自主規制/教育につながっているのだろう(日本では公正取引委員会から消費者庁に景品表示法なども移管されて、広告領域における消費者保護規制がより進むかと思われたが、今のところは大きな動きはまだない)。

FTCが2年前の2009年10月に発表した Endorsements と Testimonials と言われる、推奨型の広告と証言型の広告(前者は消費者やセレブリティが「これはオススメ」と言ったりする広告、後者は消費者が出てきて使用感を伝えて「使ってみて、びっくり」と言ったりする広告)に関するガイドラインでは、すでに“material connections”、なんらかの金銭物品的提供があって記事を書いていたりする場合には disclosure (公開)をしなければならないとし、また、“results not typical”という日本語でいうと「※個人の感想です」とか「※効果には個人差があります」といったあたりのテロップでの「お断り」もガイドラインに引っかかる状況になっている。

いわば honesty 、消費者に対する誠実さを業界に求めるのがFTCのガイドラインなわけだが、ネットの発展と普及による情報流通の変化に応じ、1980年以来の更新を2009年に行っていた。なぜこうしたガイドラインをわざわざ設け、更新する必要があったのかという理由は、FTCの関係者の言葉に端的かつ的確に表されている。

“In 1980 most of all advertising was disseminated by the advertisers themselves; today a good part of that advertising is being disseminated by users”

「1980年頃はほぼ全ての広告が広告主自身によって広められていた。しかし今日ではそうした部分が消費者によって広められている」

Richard Cleland, assistant director, division of advertising practices at the FTC from AdAge,Oct 09 – 2009

消費者に誠実なマーケティングを

これまでテレビ局や新聞社、雑誌社といった媒体においては金銭によって買われたスペース=「広告枠」については、記事的な広告であればとくに「PR」や「広告」といったお断りを入れて表示してきていた。つまり、媒体側の編成や編集によってセレクションされたコンテンツと「広告主に提供した」スペースについて明確に切り分けることによって、「何が広告で何が広告でないか」を消費者にはっきりさせてきた。

一方、この「ソーシャルメディアの時代なので、クチコミマーケティングを再考しよう」の最初でも書いたが、消費者を巡る情報流通のパイプラインが大きく変化している中で、消費者自身が情報を広める担い手となっていることは間違いなく、となるとレガシーな媒体がそうであったように、ブログの記事やツイートなど消費者側が生み出すコンテンツについても同様に“material connections”の有る無しを示す必要性があるだろう。

でなければ、結局のところ「金銭で買われたクチコミ」か、ないしは真に消費者がそう思って書かれたものかの境界線が曖昧になり、消費者のクチコミを「広告枠」としてしか考えない、消費者に対するリスペクトのない(=金を払えば書いてくれるだろう的な)マーケティング手法でが横行し続けると思う。読者の皆さんはどう考えるだろうか? (次ページに続く