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コラム

高広伯彦の“メディアと広告”概論

ソーシャルメディアの時代なので、クチコミマーケティングを再考しよう:6

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問われるマーケターの倫理観

とりわけブログやソーシャルメディアに関して言うと前者の“material connecitions”は、もっともオススメできないマーケティング手法だが、得てして「クチコミマーケティング」となるとまずこの提案を受ける広告主がまだまだ多いようだ。

一時、日本のクチコミマーケティング業界、ブログ業界界隈で話題になった、「ペイ・パー・ポスト(PPP)」は、有名人や素人に関わらず対価を払う前提で、ある商品・サービスについてブログ記事を書かせるというものを指す(ツイッターで対価をもとにある商品などについてツイートさせる(つぶやかせる)場合は「ペイ・パー・ツイート」というが、これも同様)。営業資料も存在し「広告商品化」されてるケースも見受けられるが、これは「消費者のクチコミを買う」という仕組みであって、「オーガニック(自然)」に発生するクチコミではないので、ブログやツイートなどに同じテーマについて書かれた文章が突然増えたときには、このケースの疑いが多いにある。

この「ペイ・パー・ポスト」のような仕組みは、欧米では「邪悪なクチコミマーケティング」のひとつとして取り上げられ、「消費者のクチコミを買う」ということで、この手法への批判は2つの意味で起こる。ひとつは、クチコミを「広告枠」のように買わないと拡がらないようなキャンペーンをやっているのではないか、というそもそもマーケターの資質が問われる問題として。そしてもう一つは消費者のクチコミを直接的に金銭で購入するということそのものへの嫌悪、だ。

もちろん全てのブログマーケティング事業者/ソーシャルメディアマーケティング事業者が悪ということで糾弾することがここでの主旨ではないことは言うまでもない。そうではなく、金銭/物品といった“material connections”のある施策への配慮と懸念を考慮した上でその企画を実施すべきか否かの判断力、そしてその根底にマーケターとしての倫理観に問うてみることが必要だ、ということだ。

クチコミを「買う」発想では拡がらない

マーケターの「クチコミを起こしたい」という気持ちは非常によくわかる。しかし「ブロガーに書かせる」こと自体は「クチコミ」でもなんでもなく、単に「広告枠として、消費者のクチコミを買う」ということにすぎない。他にも、某グルメサイト、某ショッピングサイト、某オンラインブックストア、某コスメサイトなどなど、クチコミの集まるサイトに「クチコミを書き込む」という「クチコミ代行業」なるものも存在するが、これなどもアルバイトがクチコミを書き込んでいたりして、“本物の”クチコミではない。結局、提灯記事は増えるけれども、「拡がる」わけではないのだ。

ブログを中心に消費者が生み出す新しい潮流を「メディア」ととらえた日本ではConsumer-Generated Media すなわち「消費者が生み出した“メディア”」と言ってきた。一方、欧米圏ではUser-Generated Contentと一般的に言い表す。こうした言葉の使い方ですら、消費者のクチコミを「メディア」としてとらえてしまう日本の現状を表現してしまっているのかもしれない。知らず知らずのうちに「クチコミ=メディア」であり、「クチコミを買う」ということがすなわち「媒体枠(広告枠)を買う」と同義の広告商品として流通する国となってしまっているのだろう。となれば、いつまでたってもクチコミマーケティング後進国でありつづけることになってしまう。一部のモラルの低い広告商品/マーケティングサービスの提供者、そしてそれを利用するマーケター、それらを使うことを企画するプランナーのせいで、間違ったクチコミマーケティングが普及することは阻止しなければならない。

クチコミが「拡がる」ことを目指すのであれば、「クチコミを買う」ではなく、「クチコミされる」ためにどういったシカケやシクミを企むか、しかも「オーガニックに(自然に)」、ということをマーケターは念頭に置いておく必要がある。でないと、消費者をバカにしている/消費者を騙しているモラルの低いマーケターとなってしまうことを認識しておくべきだろう。間違ったクチコミマーケティングの結果起こりやすいのがネット上の炎上なのであり、こうした炎上はマーケターやその施策の従事者自身が引き起こすのだ、ということも理解しておかねばならない。

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