和装のススメ

これまでのルールをリセット

先週のパリは桜が満開だった。あまり季節感を感じられないパリでも、この時期、白アスパラガスやイチゴがマルシェに並び、すこしだけ春を感じることができる。ただ、パリに移り住んでからつくづく、日本は季節を感じる所だと思う。竹の子や菜の花、その後は鮎と言った具合に、季節によって食材が替わっていくのを楽しめるが、フランスのブラッスリーにいっても季節の流れを感じることができない。日本では、食から常に自然とともに生きていることが実感できる。

住環境はどうか。たとえば、ヴェルサイユ宮殿の庭をみるとまるでディズニーランドのように木が丸や三角に切られている。これは、自然をありのままに受け入れるのではなく、自然をコントロールすることが西欧の文化であることの表れのように見える。MIWAの会員の1人は「日本のように、自然とともにある文明は世界でも類を見ない」と言っていた。縁側の曖昧さや、床の間に自然に見立てるなど、日本は常に自然を意識し、つながりを大切にした住の空間を作ってきている。

MIWA1

着物を毎日着始めてもうすぐ二年。よく「毎日着るの大変じゃないですか?」といわれるが、男の着物は全く大変ではない。5分もあれば着れる。もちろん帯や足袋のコーディネーションを考える時間は必要だが、それはスーツを着るのと同じ。帯を締めるのはネクタイを締めるようなものだ。

ただ、毎日着ていると困ることもある。それはなかなかいい小物がないこと。例えば、羽織ひも。よく売っているのは、大げさなボンボンがついていて、これは普段に付けるにはいただけない。結婚式に行くように大げさに見える。カジュアルなものはなかなか見つからないのだ。もう一つは草履。草履は革でできているのが一般的で、またそれを少し小さめを足先で履くのが粋とされている。ただ、これは慣れないと凄く足の裏が痛い。昔は土の道だったので、固い履物がよかったようだが、いまは道が舗装されていて固い草履だと地面からショックが直に伝わってくる。なので私はスニーカーと同じ素材でできている雪駄をはいている。毎日履くにはこれが一番いい。

晴れの日に着物を着る人は多いと思うが、ケの日(日常)に着物を着るというのは、それなりにハードルがある。日本人は着物を晴れの文化の中に押し込めてしまい、ケで着る楽しさを捨ててしまったのだ。だから真面目な小物しかなく、いい感じで力が抜けた小物がなかなか見つからない。そんな中調べて、そろえていくのも新しい世界が広がって楽しいものだ。革靴やベルト、スーツは全く使わなくなった。そしてこれまでは海外に行ったら安いから買わなきゃと思っていたが、いまでは全く買わなくなった。着物を着ることで、いままで考えていたルールがリセットされた。

プレゼンも着物で

3.11以降、日本にいたときから着物をきていたので、クライアント企業のミーティングも着物で参加していた。反応は3つに分類できる。一つ目は、「今日何かの日ですか?」とチクッと嫌みをいわれる。元々クリエイティブの仕事だったので、スーツではなかったのだが、ノーネクタイのカジュアルな服よりも着物の方が大企業の中では違和感があるのだろう。もう一つは全くスルー。着物を着ていることを全くつっこまれない。官庁系に多かった。もう一つは、すごく喜ばれる。これは外資系の企業に多い反応で、いままでそんな人見たことないといわれ、ミーティングが盛り上がる。大体この3パターンなのだが、着物を普段から着ることによって、日本人が日本の文化をどう見ているかというのも実感することができる。

パリでは変な目でみられませんか?ともよく云われるが、まったくそんなことはなく、レストランやオペラにいくと良い待遇で迎えられる。つまりちゃんとしているということが伝わっているということだ。こんなに簡単にちゃんとできるなら着物を着た方がいい。タキシードを着ていくよりもずっと自然で素敵だ。そしてなによりも、季節をとても感じる。袖から通る風もそうだが、袷や単衣、絹や麻の季節によって使い分け、柄によって季節を楽しむことができる。自然と繋がっていることを、衣からも感じることができるようになるのだ。

広告系のクリエイティブの仕事をしていると、大企業に行くときノーネクタイでラフな格好でプレゼンに行かれている方々も多いはず。スーツじゃなくてもいいなら、着物でもいいんじゃない?と思う。特に夏は本当に着物はいい。涼しくて。クールビズでネクタイ無し、ポロシャツを着るぐらいなら、着物でプレゼンいってみてはいかがだろうか?


【佐藤武司「パリ発 世界に通じる日本ブランドのつくり方」バックナンバー】

佐藤 武司(Rightning Paris SAS PDG/MIWAブランドディレクター)
佐藤 武司(Rightning Paris SAS PDG/MIWAブランドディレクター)

1973年、愛知県名古屋市生まれ。三重県桑名市育ち。慶応義塾大学大学院・文学研究科・美学美術史学専攻アート・マネジメント分野修士課程修了。
ビクターエンタテインメント株式会社にてビジュアルプロデュースを経験後、デザイン、映像制作会社として株式会社ライトニングを設立。株式会社ライトパブリシテイと資本提携し、CM等の広告制作を開始。iF design award、reddot design award、New York ADC賞GOLD、GOOD DESIGN賞を受賞。その後、業務を商品企画、CSRにも拡大し、世界初木製ケータイ「TOUCH WOOD SH-08C」を企画する。311を経験後、2011年10月Rightning Parisを設立。経済効率優先の物質文明の先にある生き方、社会のあり方を、美学的アプローチから提案するコンサルティング、プロデュースを行う。
2012年4月よりパリに移住し、700年の伝統のある「折形」を用いたブランド「MIWA」 Pavillon de la cérémonie du cadeau(贈物の儀式を行う特別の場所)を立ち上げる。歴史を紐解き、いままでとは違った視点からコンテクスト化することによって、新たな価値を生み出して行くプロデューサー。

佐藤 武司(Rightning Paris SAS PDG/MIWAブランドディレクター)

1973年、愛知県名古屋市生まれ。三重県桑名市育ち。慶応義塾大学大学院・文学研究科・美学美術史学専攻アート・マネジメント分野修士課程修了。
ビクターエンタテインメント株式会社にてビジュアルプロデュースを経験後、デザイン、映像制作会社として株式会社ライトニングを設立。株式会社ライトパブリシテイと資本提携し、CM等の広告制作を開始。iF design award、reddot design award、New York ADC賞GOLD、GOOD DESIGN賞を受賞。その後、業務を商品企画、CSRにも拡大し、世界初木製ケータイ「TOUCH WOOD SH-08C」を企画する。311を経験後、2011年10月Rightning Parisを設立。経済効率優先の物質文明の先にある生き方、社会のあり方を、美学的アプローチから提案するコンサルティング、プロデュースを行う。
2012年4月よりパリに移住し、700年の伝統のある「折形」を用いたブランド「MIWA」 Pavillon de la cérémonie du cadeau(贈物の儀式を行う特別の場所)を立ち上げる。歴史を紐解き、いままでとは違った視点からコンテクスト化することによって、新たな価値を生み出して行くプロデューサー。

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