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コラム

楽天大学学長が語る「EC温故知新」

大手メーカーが「既存の流通との軋轢」を避けてネットで直販する方法とは?

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(1)量が質に転化する

価格競争に巻き込まれる大きな原因の一つは、「ほかでも買えるモノを売っているから」です。なので、誰しも「ここでしか買えないモノ」を売りたいと思いますが、オリジナル商品の実現には「ロットの壁」が立ちはだかります。

メルマガを読み続けてくれているような「距離の近いお客さん」が一定数を超えると、量が質に転化して、ネット限定商品を企画販売しても在庫リスクを抱えなくて済むようになります。

これに対して、「自動販売機で買うお客さん」が一定数を超えると、「仕入れロットが大きくなることによるボリュームディスカウント」という質的変化は起こりますが、オリジナル商品が売れるかどうかは読みにくいところがあります。なぜなら、「自動販売機で買うお客さん」は「自分の欲しいものと欲しいタイミングが決まっている」ことが多いからです。

「量が質に転化する」という法則自体は普遍的だとしても、「どのような質的変化が生まれるか」は、あり方・やり方によって違ってきます。ちなみに、今回の某ショップのメルマガは、多くの大企業のECサイトと違って、店長が個人で名乗るところから始まっています。

(2)「許可を求めるな、謝罪しろ」

昨今は、大手企業が最初から多額のマーケティング予算を確保した上でECに参入するケースも増えてきています。その分、期待も大きく、早い段階で結果を出すことが求められがちです。

その点、今回紹介した某メーカー直営ショップは、「誰からも期待されていない」という状況を活かして、「自分のやりたいようにやれたこと」が強みになっているといえます。店長さんによると、当時の状況は次のようだったといいます。

「勝手にネットショップをやることにはしましたが、一応、出店の許可は本社からもらっていました。 ネットショップなんて“ワケのわからないもの”を“カタカナ”で説明されても理解できないので、トラブルさえ起こさなければ勝手にどうぞ、というスタンスでした(笑)。
ただ、2名ほど当時のお偉いさんにも理解者がいて、面白がって見てくれてはいました。勝手に20万まで使っていいぞってPCを買ってくれたりして。」

ネットの業界でよく引用される言葉に「許可を求めるな、謝罪せよ」というのがあります(もともとは米3M社の社是だとか)。これは、許可が出るまでの大幅な時間ロスや「許可されなかったからできなかった」という言い訳をするくらいなら、自分の責任でチャレンジする姿勢をよしとするものだと思います。もしそれで誰かに迷惑をかけたりすることがあれば、自分の責任として謝罪をすればよいではないか、と。

今回の某ショップは、今では本社からも期待される存在となっています。出店時の許可以降は、本社に一つひとつお伺いを立てて許可を求めるようなことはしていません。もしそうしていたら、おそらく今の姿はなかったはずです。

(3)ベンチャーと大企業の違い

ネットショップをやるには、ベンチャーが向いています。前項ともつながりますが、上司の許可を待つ間にもアクションを起こしてみると、お客さんの反応が「それがよかったかどうか」をその日のうちに教えてくれます。その反応をもとにブラッシュアップを高速で繰り返すことが、売上アップ・利益アップにつながっていきます。

ここでいう「ベンチャー」とは、企業規模の違いではありません。「変化し続けようとする強い意志」を持った組織が、ベンチャーです。したがって、大企業でもベンチャーたり得ますし、創業したばかりでもベンチャーではない組織もあり得ます。

今回の某ショップは、「大企業内のベンチャー」であったことが大きな成功要因の一つです。「自動販売機型のECサイト」をつくるのであれば、組織の論理にしたがって粛々と進めるのもよいかもしれませんが、「究極の対面販売型のお店」を目指すのであれば、店長に決裁権限を委ねるか、「許可を求めるな、謝罪しろ」と伝えることが、近道です。

※この連載では、「EC温故知新」というテーマで、「自動販売機型のネットショップにはできない売り方」でお客さんを魅了する事例などを中心に紹介していきます。

※宣伝会議9月号にて仲山氏へのインタビュー「究極の『自動販売機型』と『対面販売型』、あなたのECサイトはどっち?」を掲載しています。デジタル版でも公開中