「もう1人の社長であれ」警察広報官主役の小説『64』の作者・横山秀夫さんが語る広報の矜持

昨秋発刊され、24万部を発行する長編小説『64(ロクヨン)』の主人公は、とある県警の広報官。警察組織とマスコミとの狭間で悩む広報マンの心理や組織のありようが克明に描かれている。作者の横山秀夫さんに執筆の背景や広報について聞いた。

「広報会議」2014年1月号紙面より抜粋

マスコミ対応のすべてを書いた

『64(ロクヨン)』(文藝春秋)は、昭和64年に起きたD県警史上最悪の誘拐殺害事件をめぐって展開されるミステリー小説。D県警広報官の三上を主人公に、刑事部と警務部の全面戦争やマスコミとの軋轢、家族の問題などがからみ合いながら、新たな事件に巻き込まれていく。

「広報とマスコミの間には、どこまで行っても平行線にしかならない問題が存在するということを、まず提示したかった」と横山さんは話す。『64』では、舞台となるD県警の広報室や広報官の三上義信が、マスコミ各社の県警担当記者らと何度となく衝突する。それは記者会見の会場や県警本部の廊下、記者クラブなどあらゆる場面で繰り広げられる。

より詳しい情報を引き出そうとするマスコミと、距離を取りながらうまく付き合い、あわよくばコントロールしようとする警察。その矢面に立つ広報室のスタッフは、記者らの要求に対し強硬に突っぱねる時もあれば、記者クラブやカラオケの席で懐柔に動いたりもする。

背後には組織の力学が働く一方、その組織を構成する個々人の思いが反映され、事態は時に思わぬ方向に展開する。「この種の問題でマスコミが言うであろうせりふはすべて書き尽くしています。一方の警察にも、考えうる対抗策をすべてとらせた。そこらじゅうで何十年も同じ議論が繰り返されているのですから」。

『64』は、昭和64年に起きたD県警史上最悪の誘拐殺害事件をめぐる、刑事部と警務部の全面戦争を軸に展開されるミステリー小説。主人公である三上とマスコミとの軋轢や家族の問題が複雑にからみ合う。「組織と個人のせめぎ合い」をめぐる心理描写は横山作品の醍醐味ともいえる。

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