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「サービスデザイン」とは、既存のビジネスのリフレーミングを行い、 イノベーションを創出するデザインのアプローチである。

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サービスデザインの3つの対象領域

そのミッションをデザインの実践に移すため、サービスデザインは3つのレベルのデザイン対象を扱う(図3)。

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その第一のレベルは、カスタマーがサービスとの接触を通じて体験するエクスペリエンスである。

サービスデザインの対象となるカスタマーのコンテキストは、あるアウトカムの達成に関わる行為のプロセスや、モノや人、施設などを相互につなぐインタラクションのネットワークとして把握できる。

情報技術の発展や普及に伴って、そのようなプロセスやネットワークは今後ますます範囲が広がり、そして複合化していくことが予想され、カスタマーもまたそれによってもたらされる様々な便益を期待するようになる。

これらの時空間に広がるアウトカム達成のための各種のリソース(カスタマー自身のコンピタンスの活用も含めて)を、相互のスムーズな連携や全体の調和、また体験の世界観などを考慮して、価値創出をサポートするのがサービスデザインの任務となる。

第二に、そのようにして検討された望ましいエクスペリエンスの提供や支援を実現するサービスのデリバリーを実現しなければならない。

ここで大切なのは、カスタマーやユーザーにとって直接的に知覚・体験されるサービスのフロントステージでのインタラクションと、直接的には知覚されづらい、または知覚できないバックステージにおけるプロセスやサポートシステムの整合性を図ることである。

さらに、それらの運営にふさわしいスタッフの役割や部門間の連携も推進しなければならない。多くのサービスイノベーションのプロジェクトでは、社員やスタッフの新たな役割やスキル、さらに業務プロセスや組織の変革を伴うことから、近年はサービスデザインのプロジェクトにおけるスキル開発や組織デザインの重要性が高まっている。

第三に、サービスは事業として持続可能で優位性を発揮し続けるものでなければならない。そのため、カスタマーにとっての価値とともに、サービスプロバイダ企業にとっての価値を把握し、サービスを補完するサプライヤや、サービスの基盤を提供するインフラストラクチャーのプロバイダなどとの価値共創のネットワークを構築し、その事業モデルをデザインする必要がある。

特に最近の先進的なサービスの傾向としては、様々な主体の間で物資や情報、貨幣、認知や評判といった各種のリソースが交換されるサービスエコシステムとして構築されるものが増えてきている。

さらに、既存のサービスが容易に別のサービスのコンポーネントとして組み込まれることで新規のサービスの開発が加速化し、サービス間の相互依存性が高度に高まっていく、「サービスエンタングルメント」と呼ばれる現象も見られる。

サービスを通じた価値共創の姿は、今後もますます複雑系としての様相を強めていくことが予想される。

求められる人材・スキル

サービスデザインがこのように異なるレベルのデザインを横断することに伴い、そのプロジェクトを推進するメンバーには、柔軟な視点や視座、視野の切り換えとともに、異なるエレメントやプレイヤーを全体としてオーケストレーションするスキルが求められることになる。

例えば、エクスペリエンスのデザインの場合、様々なタッチポイントをカスタマーのアウトカムやサービスブランドの世界観に調和させていくため、個々のインタラクションの体験に注目しつつも、常にその役割をエクスペリエンス全体の中に位置づける、ズームイン/ズームアウトの切り換えが行われる。

またサービスデリバリーのデザインでは、カスタマーのコンテキストや体験の理解から導かれたインサイトを事業側へと取り込むアウトサイドインの視点と、企業の持つコンピタンスを生かしてサービスを構築するインサイトアウトの視点の切り換えがなされる。

さらにサービスエコシステムのデザインに際しては、そこに関わる様々な立場のステークホルダーとともに、それぞれの役割や責任、制度を共同でデザインしていくコミュニケーションスキルとファシリテーション能力が発揮される。

多くの日本企業の現状として、カスタマーエクスペリエンスのデザイン、サービスのデリバリーやプロダクトの設計、その実現のための技術やシステムの開発、さらに組織編成や運営のマネジメント、事業戦略の策定において、それぞれの担当が部門毎に分断されており、それらを横断した連携の取り組みが困難であるか、あるいはそのために多大な時間やコミュニケーションの労力を要する傾向が強い。

イノベーションのスピードが、デザインとテクノロジー、そしてビジネスの領域の発想やコンピタンスの融合によって加速していることを考えるとき、組織や業務の在り方もそれに応じた変革が急務である。

今後、日本の企業がサービスデザインの考え方やマインドセット、様々な知識共有のツールやテクニック、さらに共同デザインのプロセスを取り入れることで、各部門の担当者がその専門性を発揮しながらも、相互の連携によって魅力的かつ斬新なビジネスの構築が促進されることを期待したい。

次ページ「CASE STUDY:サービスデザインの実例」

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