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その客観性は“本物”か――自分の中に“ 2人の自分”を飼う

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Marketing TOPICS:インサイトに迫る、クリエイターの洞察力

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人々にとって真に価値のある商品・サービスを提供するためには、彼らの潜在的ニーズ=「インサイト」を発見し、それに応える方法を考え、具現化していく必要があります。クライアントと共に、これまでにない価値の創出に挑戦するクリエイターの洞察力に迫ります。


太刀川英輔(NOSIGNER 代表取締役)
慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。複数の技術を相乗的に使った総合的なデザイン戦略を手がけるデザインストラテジスト。ソーシャルデザインイノベーション(社会に良い変化をもたらすためのデザイン)を生み出すことを理念に活動中。Design for Asia Award大賞、PENTAWARDS PLATINUM、SDA 最優秀賞など受賞。

被災者のインサイトを見つめる

プロダクトを作っている自分と、お店に並んだそれを買うかもしれない自分。商品・サービスの企画開発をするにあたって、僕は自分自身の中に“2人の自分”を飼うべきだと考えています。

インサイト、つまり消費者の正直な気持ち・欲求・願望を、自分なりに知るためです。

どうしても“我が子”がかわいく思えてしまう作り手としての自分を律して、「正直なところ、その商品が欲しいか?」「買いたいか?」――客観性を持って、そう自問自答する。そのプロセスが、企画のコアとなるコンセプトを強くすると思っています。

スーパーで値札が貼られて並んでいる様子を想像するでもよし、それが難しければ身近な友人に聞くもよし。「その商品が消費者にとって本当に欲しいものなのか」を検証するのはそんなに難しいことではありませんが、自分のアイデアが否定されたり、間違っているのを知るのが怖い、といった理由でそれを怠る、つまりインサイトに寄り添うことなく企画進められるケースも少なくないと思います。

今年8月に発売した防災キット「THESECOND AID(セカンドエイド)」も、使う側、買う側としての自分の気持ちに思いを馳せながら開発したプロダクトの一つ。物流機器などを扱う仙台の商社・高進商事と、災害時に有効な知識を集めて共有するwikiサイト「OLIVE」を運営する僕らNOSIGNERが共同で開発したものです。

これまでの防災キットと異なるのは、避難時に最低限必要な物品だけでなく、「知識」もセット内容に含まれていること。

「避難時に持ち出すべきものは何か」「災害発生後72時間以内に何をすべきか」――「OLIVE」に集まった、被災者にとって本当に必要な知識を抜粋して作った冊子を同梱しているのです。

「OLIVE」を運営しながら、この活動の延長として防災キットを作り、販売したいという思いはずっと持ち続けていました。たくさんの知識や情報が集まってくる中で、「こういう情報を、震災前に知っていたら…」と強く感じたのです。

そんな折、高進商事から「OLIVEの情報も一緒に届ける、防災キットを作りたい」と声をかけられたのです。自身も被災した高進商事の担当者の言葉に、「モノは確かに大事だけれど、それ以上に『知恵』が欲しい」というニーズが、僕だけでなく、他の人の中にもあったのだと確信することができました。

そして、既存の防災キットを一通り調べてみると、物品と知識をセットにして届けるものはありませんでした。被災者のインサイトに応える防災キットをつくる、それが「THESECOND AID」の試みでした。

その客観性は“本物”か

他の人の声・意見を数多く聞くことは、自分が客観だと思っているものが、真に客観であるかを確かめる上で有効だと思います。

自分の客観性と真の客観性のピントを合わせることで、インサイトに応えるデザインの精度を高めたいと考えています。

THE SECOND AIDは、アウトプットとしてのパッケージデザインも、使う人のインサイトを強く意識しています。

防災キットって、部屋に置くのは邪魔だとか、インテリアと合わないという理由から、押し入れや納戸など、いざというときに取り出しづらい場所に置いている人が多いんです。

ですから、身近な場所に置きやすい、日常生活の中に置いていても違和感がない、というのがデザインの必須条件でした。

そこで、セット内容をぐっとコンパクトにすることで、キット全体を一般的な本棚にぴったり収まるサイズに。そして、「いざというときに助けてくれるもの」という“防災感”を一目で感じられるよう、色は白と赤を採用しました。

これまでの防災キットは、言ってみれば「色々なアイテムのアソート」で、キット全体としての“塊”感がありませんでした。アイテムの網羅感がなく、「本当にこれがベストな組み合わせなのか」が使い手にも分からない状態。すべてのアイテムを同じデザインルールで統一することで、「これさえあれば安心」と思えるような存在へと作り上げました。

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