また、布団業界とこれまで関わりのなかった人材と組むことで新しい考え方を取り入れたいとの考えから、当時博報堂から独立したばかりだった、クリエイティブディレクター・室井淳司氏と協業。室井氏はデザインのみならず、経営面からも表参道布団店に深く関わることになる。
「勝算があったわけではありませんが、動くなら今しかないと思いました。実店舗での販売に加えて、ECを展開することが、今の時代には欠かせないという認識もありました。そこで価格競争に巻き込まれるのを避けるためにも、他メーカー商品とは一線を画す、確立されたブランドを構築する必要がありました」と古賀氏は話す。
表参道布団店が目指すのは、30~40代の若年層に選ばれる布団ブランド。畳の上に布団を敷くのではなく、ベッドで眠る都市型のライフスタイルを送っている。生活空間づくりにおいてデザインへのこだわりがある。
布団にもこだわりたいが「この布団だったらいいな」と思えるものがない。─そういう人たちに、「このブランドだったら」と思ってもらえるブランドをつくろうと考えた。
志向するのは、安心安全で、機能的で、シンプルな布団づくり。真っ白な羽毛と100%コットンの生地という、素材の良さを最大限に引き立たせるため、柄のない、シンプルでミニマルな商品デザインとしている。
「ブランディングにあたっては、『1ブランド1デザイン』という欧米型の戦略を採用しました。1つの企業に、1つのブランド、1つのデザインだけを存在させるという戦略です。商品デザインはもちろんのこと、ロゴや店舗空間デザイン、コミュニケーションデザインも含め、1つのデザイン戦略の下で統一しています」とアーキセプトシティの室井氏は話す。
このデザインは、日本人だけを意識したものではない。海外へのアプローチも視野に入れながら、一目で日本ブランドだと分かるトーン&マナーを意識した。
「日本ブランドに対する海外からの信頼は厚く、市場として一定の規模があります。我々のように規模の小さい企業が世界に打って出る時に、日本ブランドであることを認知してもらうためにはコミュニケーションが担う部分が大きいと思います」と室井氏。
ミニマルで、シンプルで、美しい“ジャパニーズモダン”は、国内外を問わず共感されるはず。まずは見た目で興味を引き、それをフックに、ブランドのことをより深く知ってもらいたいと考えている。
商品づくりにおいては、布団業界で長年にわたって培われてきた確かなものづくりを受け継ぐ。
「課題が山積する布団業界ですが、大手布団メーカー販売店時代、品質に関する不満を聞いたことは、ただの一度もありませんでした。確かな技術に基づく布団づくりと、それによって達成される顧客満足は、表参道布団店にも受け継がれています」と古賀氏。
さらに、“目に見える”デザインのみならず、業界の長年の課題だった「価格への納得感」を生み出す仕組みづくりにも取り組む。具体的には、使用する素材の値段によってのみ商品価格を変更するという独自ルールの策定だ。
これで消費者にとって、布団を選ぶ際の明確な価格基準ができる。
古賀氏は、「将来的には、ネットでの購入時、面積あたりの羽毛の重さと布団のサイズを入力すれば自動的に価格が算出されるような仕組みも整えたい。ベースとなる基準値は設けつつ、お客様の好みに合わせた布団を、明朗会計でカスタマイズできるようにしたいですね」と、布団に特別なこだわりを持つ人のニーズにも応える意気込みを見せた。
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