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スマホは910リットル、自動車は6万5000リットル 企業に求められる水リスクの備え

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ユーザーの水使用量を低減する

ホットスポットがユーザーにある場合の対策を見てみよう。ユニリーバ社は、世界約190カ国にブランドを展開する消費材メーカー。主要製品のウォーターフットプリントを「原料に使用される水」、「製品中の水」、「水不足の国(中国、インド、インドネシア、メキシコ、南アフリカ、トルコ、米国などの9カ国)のユーザーが使用する水」にわけて調査した。するとユーザーによる水使用量がウォーターフットプリントの50%を占め、ここに課題があることがわかった。製品を使うときに大量の水が必要では、水不足の地域で普及しない。そこで、この水使用量(2008年を基準とした1回当たりの水使用量)を、2020年までに半分にするという目標を掲げている。たとえば、すすぎが1回ですむ柔軟剤入り洗剤を発売した。1回の洗濯で最大30リットルの水を減らすことができる。

“How”から“Why”へ

今後の水不足の進展を考えると、いかに使用量を最小化するかを考えなければならない。これまでの節水は“How”によって生まれてきた。水を使う行為があったとき、「いかに」より少ない水で同じ行為が可能かと考えたわけだ。しかし発想を変えて、“Why”と問いかけることも重要ではないか。水を使う行為があったとき、「なぜ」その行為に水が必要かと考えるのである。たとえばトイレを流すと約10リットルの水を使用する。「いかに」少ない水で排泄物を流すかと考えた場合、より少ない水で排泄物を流す節水型トイレが開発される。一方、「なぜ」排泄物を処理するのに水を使うのかと考えると、水をまったく使用しない無水トイレ、屎尿を活用し肥料やエネルギーをつくるバイオトイレが開発される。

シャワーを10分浴びると約100リットルの水を使用する。「いかに」少ない水で体の衛生を保つかと考え、節水型シャワーヘッドが誕生した。一方、「なぜ」体の衛生を保つのに水を使うのか、水を使わずに衛生を保つ方法はないかと考える。一例だが、ケープタウン大学の学生だったルドウィク・マリシェーン考案の「ドライバス(DryBath)」はジェル状で無臭、肌に塗れば水と石けんの役割を果たした。ドライバスは学生らの起業を奨励する目的で設置されたグローバル・スチューデント・アントレプレナー・アワードで2011年の最優秀賞に輝いた。衛生状態が悪く、数億人が水を常時利用できない状況にあるアフリカやその他の発展途上国では、ドライバスが活用される機会が広がっている。

人間の水使用量を最小化する目的は、地球環境を保全するためだ。マネーゲームによって経済成長を演出できても、企業活動に使用できる資源はすでに底をついている。人間が水を独占し、生産活動を行う現在のやり方は限界にきている。

橋本 淳司(はしもと・じゅんじ)
学習院大学文学部卒。出版社(日本実業出版社、ベストセラーズ)で書籍編集の仕事に携わった後、ジャーナリストとして独立。水の課題を抱える現場、その解決方法を調査し、さまざまなメディアで情報発信する。NPO法人WaterAidJapan 理事、NPO法人地域水道支援センター理事なども務める。