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コラム

「広告」から「クリエイティビティ」へ【ACCプレミアムトーク】

電通・澤本嘉光に聞いてみた「クリエイターが、30歳までに経験しておきたい3つのこと」

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2.徹底的に誰かに監視される

例えば、今話題のライザップやトータルワークアウトのようなパーソナルジムが、普通のジムよりも結果を出している最大の理由って、指導法とかメソッド以前に、単純に、「怖そうな人が横で見ている」からだと思うんですよ。

人間って一人だけでは、どうしても自分の限界を突破できない生き物なんです。ベンチプレス一つとっても、一人だと「ああ、もう限界」ってやめちゃうところを、横で怖そうな人に「ラストあと3回!!」って怒鳴られて怖いから死ぬ気で持ち上げる瞬間、実は、筋肉ってこの限界を突破した時に、一番できるものなんですよね。

クリエイティブの筋肉も同じことだと思っています。横で誰かから「もう30案コンテを、明日までに持ってこい!」「あと2時間以内に、修正案持って来い!」と追い込まれて、自分の限界を突破してもがいている瞬間に、クリエイティブの地力がついてくる。これを、一人だけでやるのは相当難しいですよ。みんな甘いから、自分には。

この点において、クリエイター職に残っている、ある種の徒弟制のような文化を、僕は肯定的に捉えています。

——なるほど。勝手に力づくで解釈すると、若い頃から「インテグレート」とか「全領域対応」とか言ってないで、とにかくもう、鬼軍曹の下で何か一つのことに打ち込んで徹底的に修行しろ、ということでしょうか。

澤本:そう、若い頃から「インテグレート」とか「統合型」のクリエイターを目指しても、結局それはただの器用貧乏な人になるだけですよ。何か自分の拠り所となる専門性がないと、勝負での使いどころが見えないクリエイターになってしまう。総合でできるけど基礎に人より優れている分野がある、ということです。

——わかります。ただ一方、特に20代の広告会社クリエイターの間では、もはや「一芸に特化した職人クリエイターは時代遅れ」という空気感があるのも事実だと思うんですよね。そして澤本さん自身も、現在は統合型のインテグレートCDの代表格とみられることが多いと思います。澤本さんは、いかにして職人技を超えた、幅広い対応力を身に付けていくことができたんでしょう?

澤本:「一芸しかできない」のは時代遅れだと思いますが、「全部できるけど全部そこそこ」が一番良くないと思います。僕はクリエイターというのは、何かしら制作物を作ることにまず人生かけられる人だと思っていて、まあ古いのかもしれないけど、その制作物が人の心を動かすと信じている人だと思います。僕が統合型気取りをしているのは、これは、自分が意識的にいろんなスキルを獲得していったということよりは、会社人生の中での、偶然との出会い、格好よく言えばセレンディピティを大切にしていった結果だと思っています。出会った人からいろいろ学んだり、教えてもらったり。意識して、会おうと思わないような人と急に会ったりするのが面白いし、そういう時に自分が広がる気がします。
僕、教わるの大好きなんですよね。

3.「偶然の出会い=セレンディピティ」を大切にする

どこの会社もそうだと思いますが、普通に働いているだけでも、自分が本来なら出会うはずもない分野の人や、仕事と出会うものなんです。そしてその一つ一つと、きちんと向き合っていくだけで、自分の中の引き出し、つまりアーカイブが知らず知らずに増えていくはずなんですよね。これが後々、クリエイターとしての大きな糧になります。それは、人、もそうですし、人じゃなくてもそうです。

例えば、僕は若い頃に、住友金属鉱山という鉱山会社の仕事を担当させていただいたことがありまして。鉱山会社だから、ということで上司と一緒に鉱山に連れて行かれたんですよ。鹿児島に菱刈鉱山っていう金鉱があるんですけど、その鉱山のなかでヘルメットしながらコピー考えてたんですよね(笑)。

——電通入って鉱山に突入するとは、よもや思いませんよね。

澤本:そうそう。それで、コピー書くのに金山のこと知らなきゃ書けないから、金山、斜鉱の掘り方とか(笑)、徹底的に調べざるを得ないことになっちゃって。知らないうちに、自分のなかで、「金山」というアーカイブが勝手にできているんです。僕、たぶん電通のなかでも「金山」のことムチャクチャ詳しい人間だと思いますよ。

「金山」はあくまで一例ですが、こういった仕事や人との偶然の出会いを素直に受け止めて、一つ一つを大切に向き合っていくうちに、勝手に自分のなかのアーカイブが増えていくはずなんです。そして、その若い頃に培ったアーカイブの数が、後々クリエイターとしての自分に跳ね返ってくる財産になります。

だって僕、ソフトバンクで白い犬が金山に潜っていくような企画だったら、今すぐにでも作れちゃいますからね(笑)。

澤本嘉光(さわもと・よしみつ)
クリエーティブボード エグゼクティブクリエーティブディレクター/CMプランナー。

1990年電通入社。ACC、TCCを始め、カンヌ、NYフェスティバル等数々受賞。クリエイター・オブ・ザ・イヤーは3度受賞。
主な仕事:
〔テレビCM〕ソフトバンク「白戸家」、トヨタ自動車「企業 ドラえもん」シリーズなど
〔映画〕「ジャッジ!」原作・脚本、「犬と私の10の約束」原作・脚本
〔PV〕「魔弾」T.M.Revolution、「アフターダーク」ASIAN KUNG-FU GENERATION、「気づいたら片想い」「今、話したい誰かがいる」乃木坂46
〔著書〕「お父さんは同級生」(幻冬舎)など
〔ラジオ〕2014年4月より、ラジオ番組「澤本・権八のすぐに終わりますから。」 パーソナリティ TOKYO FM 毎週土曜25時より


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