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YKK吉田会長が明かす 地方創生の現実とは?

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本社建て替え機に、黒部へ

一方、東京都千代田区にあるYKKグループの本社は、建物の老朽化に加え、事業の拡大に伴い都内各所に分散していた機能を集約させるため、建て替えの必要性に迫られていた。新たな本社ビルの設計を進める中、2011年に東日本大震災が発生。免震構造の見直しやエネルギー問題、安全対策などを綿密に練り直した結果、本社の規模は約700人にまで目減りした。

2015年2月には、吉田会長は富山県内のホテルにて、黒部市に移った社員やその家族を招いた食事会を実施。慣れない土地での生活でどのような点に困っているのか、自ら聞き取った。

加えて、東京は首都直下型地震や南海トラフ地震など、震災リスクも非常に高い。東京一極集中の危険性も考えなければならない─。そこで浮上したのが、新幹線開業で「日帰り圏内」となる富山へ本社機能の一部を移転させることだった。

もとより、吉田会長と猿丸雅之社長との間で、世界71カ国・地域で事業を展開する中、本社をどこに置くべきか、という議論は度々なされていた。猿丸氏は常々「機能さえ果たしてくれれば、本社はどこでも良い」と語っていたという。一番大切なのは技術開発。それが黒部市にあるならば、国際部や、経理、人事、購買、法務・知財部門なども黒部にあってもいい。かくして、約230人の社員の黒部市への転勤が決まった。

衣食住に課題が噴出

移転決定後、約110人の社員が富山入りした。「男性・女性にかかわらず、単身者は割とすぐに移ってくれましたが、やはり家族がいる人の対応は配慮しなくてはなりませんでした。このため、ある程度、異動する期間に余裕を持つようにしました」。

一方で不安もあった。「慣れない黒部での暮らしに不自由していないだろうか」─。吉田氏は、2015年2月、社員とその家族を招いた昼食会を開き、現地での生活面の不安についてヒアリングを行った。

そこで分かったのは、まず移住に適した賃貸住宅が見つからない、という問題だ。富山県は持ち家比率が日本で最も高い一方、集合住宅や賃貸住宅が少ないのが現状だ。社員たちは黒部市内に住宅を見つけられず、富山市や魚津市にようやく落ち着く、というケースも多かった。

「これまでの調査では、黒部市に住宅を借りられたのはわずか20人ほど。皆ほとんど同じ不動産会社に行くので、人気の住宅はすぐ埋まってしまう。『これは大変だ』と思いました」。

交通の問題も大きかった。雪道での車の運転に戸惑う人も多い上、公共の交通手段も十分に整っていない。住居での雪かきの問題もある。課題は想像以上に山積していた。

「落ち着くまでおそらく今後3年から5年はかかると思います。会社としては社員の皆さんが普段の暮らしに不便がないよう、最大限の努力をしていく。地方行政にも2次交通の整備を進めてもらえるよう要望していますが、現状は当社が駅から工場まで路面バスを無料で走らせることで対応しています。交通や住宅の利便性を追究し改善していかないと、『地方とはこれほど不便なものなのか』と思われて、異動する人もいなくなってしまうというのが実情ではないでしょうか」と、吉田氏は力を込める。

次ページ 「エネルギー問題も解決したい」へ続く