P&G、ダノン、ユニリーバ、日産自動車、そして資生堂。各社のマーケティング部門を指揮し、マーケティング人材を育成してきた、音部大輔氏。P&Gに始まるそのキャリアの中では、常に「戦略思考」を重視し、実行してきました。その経験を基に、「戦略」の定義と、実務における使い方をまとめたのが、書籍『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(宣伝会議刊)です。P&G時代の同僚でもある伊東正明氏との対談を通じて、普遍的な「戦略思考のマーティング」の実践のあり方を考えます。
伊東:
私は1996年に新卒でP&Gに入社し、洗濯用洗剤ブランド「アリエール」のアシスタントブランドマネージャーのポジションに就きました。ブランドごとに、下からブランドマネージャー、マーケティングマネージャー、マーケティングディレクターがいるのがP&Gの基本的な組織体制ですが、当時のアリエールはブランドマネージャーが不在。アシスタントブランドマネージャーが複数名いて、そのトップが音部さんでした。
同ブランドは存続が危ぶまれるほどの危機的状況にあり、私の入社直後には、その2年前と比べ、カテゴリーシェアが半分以下にまで落ち込んでいました。その状況を打破するため、音部さんが策定したブランド立て直しのプランを約半年かけて二人三脚で実行しましたね。
音部:
洗濯用洗剤に「除菌」という付加価値を与えてリブランディングを図るプランでしたが、当時は社内の理解が得られませんでした。
伊東:
消費者調査で「洗濯に求めることは?」と尋ねて、「除菌」と答える人はほとんどいないでしょうから(笑)。とは言え、リサーチからスタートするマーケティングアプローチでは、決して導き出せない秀逸なアイデアでした。音部さんの「戦略思考」が生かされた象徴的なケースだと思います。

