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コラム

電通デザイントーク中継シリーズ

世界の新しい常識「シンギュラリティー」とは?【電通デザイントーク・前編】

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人工知能で「技術的失業」が発生する

井上:人工知能が経済にどのような影響を与えるかを考えるとき、松田先生が紹介した分類に加えて、「情報空間」と「実空間」に分けて考えるといいでしょう。

井上智洋
駒澤大学経済学部准教授。経済学博士

マクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論、人工知能と経済学の関係を研究するパイオニア。2016年に書籍『人工知能と経済の未来 ~2030年雇用大崩壊』(文春新書)が大きな話題になり、17年7月には新著『人工超知能 ~生命と機械の間にあるもの』(秀和システム)を発表。14年から「AI社会論研究会」を開催しており、シンギュラリティーを含む社会系の人工知能コミュニティーの中心人物。『日経ビジネス』誌の2016年版の「次代を創る100人」に選出された。

「情報空間」とは、単に情報や記号を処理する世界です。「実空間」は自動運転車やドローンなどのように、人工知能を組み込んだ賢い「スマートマシン」が、実際に物を運んだり、物体を操作したりするような世界です。

「汎用型人工知能」を実現させる上で、一番の壁は人工知能による言葉の意味理解ですが、2025年には実現すると言われています。その結果、「技術的失業」が生まれます。これまでも新しい技術の登場のたびに「技術的失業」は発生してきましたが、その時は人間に優位性のある他の職業に就くことで解決していました。

ところが、「汎用型人工知能」は、ほとんど全ての職業を奪ってしまう可能性を持つのです。その結果、松田先生が指摘された「不要階級」が生まれてしまう可能性がある。その人たちが生きていくためには、ベーシックインカムのような制度が必要になるでしょう。

一方で、簡単には消滅しない仕事もあります。それは、クリエーティビティ、マネジメント、ホスピタリティー関連の仕事です。ほんの一部の人たちが、こうした仕事にありつけます。

こうした現象が、第4次産業革命と地続きで発生すると考えています。2030年に「特化型人工知能」から「汎用型人工知能」の時代に入ると、資本主義の構造は大きく変化します。私は現在の資本主義を「機械化経済」、これから始まる新しい資本主義を「純粋機械化経済」と呼んでいます。

「機械化経済」の数理モデルの分析結果によれば、どんな国もいずれは2%前後の経済成長率に落ち着きます。典型的な例がアメリカで、この20年間の実質経済成長率は2%です。現在、中国やインドは高い経済成長率ですが、将来的には落ち着いていきます。

一方で、「純粋機械化経済」の理数モデルによると、たとえ技術進歩率が一定だったとしても、成長率は年々伸びていくという結果になりました。つまり第4次産業革命で人工知能を味方に付けた国や企業は上昇路線に乗り、そうでない国や企業は停滞路線に陥るわけです。私はこれを「第2の大分岐」と名付けました。ちなみに、最初の大分岐は第1次産業革命です。

「第2の大分岐」で、日本は逆転できるのか。私はそんなに甘くないと思っています。その理由は、IT化が進んでいない企業が多いためです。例えば、未来の自動車は人工知能でコントロールされます。そこでは車載OS(基本ソフトウエア)を制した企業が、自動車産業を制覇します。パソコン業界を制覇しているのは、ウィンドウズというOSを制作しているマイクロソフトで、入れ物をつくるメーカーはあまりもうかっていません。今後、ハードウェア(もの)を組み立てることはますます付加価値がなくなっていき、研究開発、設計・デザイン、マーケティング、ブランディングに価値が生まれるようになるでしょう。こうした営みに必要なのは、優れた頭脳や発想力です。

では、日本の頭脳はどうか。エンジニアリング分野の論文数の推移を見ると、アメリカをはじめとする先進国や中国は順調に伸長しているのに対して、日本はじりじりと減少しています。日本の科学技術は衰えていて、20~30年後にはノーベル賞受賞者を輩出できなくなると言われているほどです。この状況に歯止めをかけ、人工知能をはじめとする科学技術力を高めていかないと、日本は没落してしまいます。

日塔:次は斎藤和紀さんから、ビジネスや組織とシンギュラリティーについてお話しいただきます。

次ページ 「指数関数的な成長を実現する企業の条件とは」へ続く