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無視できなくなってきた「シンギュラリティー」
日塔:「シンギュラリティー」と言うと、多くの人がレイ・カーツワイル氏によって2005年に出版された『シンギュラリティは近い』(NHK出版)を思い浮かべるでしょう。この本は、「人間は死ななくなる」「宇宙が意思を持つようになる」など、衝撃的な内容で私自身は“ドン引き”してしまいました。
ところが、NASAの敷地内にシンギュラリティー大学が開設され、TEDでシンギュラリティーをテーマにするプレゼンテーションが行われ、Xプライズ財団とシンギュラリティー大学が企業向けプログラムを提供するなど、一歩引いて眺めている場合ではない、という意識が芽生えてきました。
2016年には、全日本空輸がXプライズ財団とパートナー契約を締結し、国際賞金レースを開催するなど、日本企業も動き始めています。われわれもシンギュラリティーの指数関数的思考を学び、日本企業が世界に羽ばたくお手伝いをしたい。それが今回の趣旨です。
まずは、「シンギュラリティサロン」を主催する神戸大学 名誉教授 松田卓也先生からお話をいただきます。
優秀な頭脳の争奪戦がすでに始まっている
松田:世界的ベストセラー『サピエンス全史』(河出書房新社)の著者で、イスラエルの歴史家であるユヴァル・ノア・ハラリ氏によれば、シンギュラリティー革命によって人は死ななくなり、超知能と融合した「神=ホモデウス」になるそうです。そして世界は「ヒューマニズム=人間中心主義」から「データイズム=アルゴリズム」へと移行します。
現実的なことを言えば、人間が「ホモデウス」になるためには大金が必要な可能性があります。もしそうなら金持ちやエリートしか「ホモデウス」になれないわけです。そして、これまで国家が必要としてきた労働者や兵士は、すべてロボットに取って代わられます。これが最近、よく言われる「技術的失業」です。
ホモデウスになれない多くの人は、政治的・経済的にまったく不要な階級となる。そして支配階級は、こうした人民を扶養しなければいけなくなる。ハラリ氏は、そう言っています。
人工知能は「強い人工知能」と「弱い人工知能」、「特化型人工知能」と「汎用型人工知能」に分類できます。人々が危惧するのは、ハリウッド映画「ターミネーター」のように、意識を持つ「強い人工知能」が人間を支配する世界です。
一方で「弱い人工知能」とは、性能が低いという意味ではなく、意識を持たない人工知能のことを指します。私が強調したいのは、意識を持たない「弱い人工知能」によるシンギュラリティーでも、世界は変わるということです。
「特化型人工知能」は、アルファ碁のように特定の目的のための人工知能です。現状では、全ての人工知能がこれに当たります。「汎用型人工知能」は、人間のようになめらかな動きで、基本的に何でもできる人工知能です。しかし、この実現は極めて難しい。「汎用型人工知能」をつくるには、人間の大脳新皮質をまねたマスターアルゴリズムを解明しなければなりません。そして、これを独占できた国家は、政治・経済・軍事の世界覇権を握ります。覇権企業の株価は、100兆円を下らないでしょう。
その実現のために、必要なのは「優秀な頭脳」です。実際、グーグルが500億円かけてディープマインドのデミス・ハサビス氏という天才を雇ったり、有望な会社に世界的大企業が投資したりする動きが続々と出ています。私はこれを「頭脳資本主義」と言いたい。優秀な頭脳の争奪戦は、すでに始まっているのです。
日塔:続いては、駒澤大学 経済学部 准教授 井上智洋先生から経済や未来の観点からお話をいただきます。
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