2018年上半期ナンバーワン本『君たちはどう生きるか』はなぜ共感を生むのか

マガジンハウス『漫画 君たちはどう生きるか』

2018年上半期、各販売会社のランキングの1位を総なめした『漫画 君たちはどう生きるか』。発売後7カ月で200万部を売り上げた本書の企画を手がけたのがマガジンハウス 取締役の鉄尾周一さん。不朽の名作を漫画化した理由や、話題化の背景にあるプロモーション戦略に迫った。
『編集会議』2018年夏号(7月31日発売)の特別編としてお届けする。

マガジンハウス 取締役編集担当 鉄尾周一さん

漫画化のきっかけは若い編集者

—2017年8月24日に発売した『漫画君たちはどう生きるか』は、1937年に吉野源三郎氏が発表した同名小説(岩波文庫)を原作としています。80年以上前に出版されたこの小説に注目したのはなぜですか。

昔から大好きな本だったんですよ。出会いは私が20歳くらいのとき。父に勧められて読みました。主人公の中学生・コペル君がおじさんとの交流を通して「生き方」を考えていく作品なのですが、自分の経験と重なってすごく心に沁みたんです。

この小説が書かれたのは第二次世界大戦が始まる前です。古い本ですし、自分の中では“歴史的な名著”というイメージだったんですが、あるとき若い編集者の机にこの本が置かれているのを見つけて驚きました。彼女は「昔から好きで、何度も何度も読み直している」と言って、また別の男性編集者も愛読していると教えてくれたんです。

私は「あーそうなんだ! この本って今の若い人にも伝わるんだ!」と思ったと同時に、もしかしたら今の時代に出しても多くの人に共感を持ってもらえるんじゃないかと考えました。このことが漫画化の引き金になりました。

なぜ若い編集者がこの本を読むのかと考えたときに、やはり時代背景はあると思いました。バブルの時代に「君たちはどう生きるか」と問いかけても、「余計なお世話だ」と言われそうですよね。今は、景気がいいという割に実感がなかったり、人生100年時代と言われる一方で少子高齢化の問題に直面していたり、世界情勢をみても「自国ファースト」が増加して“にらみ合い”が生じています。みんなが漠然とした不安を抱えているので、その点では小説が書かれた時代と共通していると思ったのです。

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