コラム

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成瀬勇輝×坂井直樹 対談 お金が無くなったら生きていけない、と思っていないか?

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コンセプターの坂井直樹さんが、今起きている社会の変化の中でも、少し先の未来で「スタンダード」となり得そうな出来事、従来の慣習を覆すような新しい価値観を探る対談コラム。今回は、バンで各地を巡りながら、様々な場所で仕事をする「ノマド」を実践し、トラベルオーディオガイド「ON THE TRIP」を制作する成瀬勇輝さんとの対談です。旅や起業の話を起点に、スティーブ・ジョブズ、方丈記、水風呂…と関心領域を掘り下げ、過去・現在・未来の話を行ったり来たりしながら、これからの暮らし方について語りあいました。

左)成瀬勇輝 氏、右)坂井直樹 氏

鴨長明は、鎌倉時代の「ノマド」だった

坂井直樹 氏

坂井:成瀬さんは、アメリカで起業学を学んだあと、世界中を旅して、枠にとらわれずに活躍する日本人をインタビューしてまわったそうですね。

成瀬:50年代、60年代のアメリカ文学を彩った「ビートジェネレーション」が好きなんですよ。行き過ぎた資本主義や大量生産・大量消費の世の中に閉塞感を感じた若者が反発していくカウンターカルチャーに憧れがあって、ジャック・ケルアックの『路上』なんかを読んで、アメリカに行きたい、世界を見たいと思ったんです。坂井さんは、そのころの空気をリアルタイムで感じていらっしゃるんですよね。

坂井:僕は60年代後半、サンフランシスコで「Tatoo T-shirts」を作って売っていました。既存の企業に居場所はないと思って渡米したのが19歳のとき。ヒッチハイクをして、公園で寝泊まりしたこともありましたね。当時の中産階級は、ネクタイをしめたお父さんとレストランに食事に行くような生活をしていました。そうした典型的なコンサバティブなアメリカと、既成の価値観を否定する、ヒッピーのような新しいジェネレーションが思い切りぶつかった時代です。

成瀬さんは僕よりだいぶ若いけれど、世代を超えて同じようなことに関心を持っているのかもしれないね。60年代は、あらゆるマイノリティを解放する運動が起きました。あれから50年経った今もLGBTとか環境保護とか、問題は残っているけれど、昔と違うのは、社会的な動きだったものから、企業や国家の動きになってきている。

成瀬勇輝 氏

成瀬:僕は、世界1周の旅を終えてから、23歳のときにモバイルメディアの「TABI LABO」を立ち上げ、2017年にトラベルオーディオガイドアプリの「ON THE TRIP」を立ち上げたんですが、ずっと旅に関心を持ち続けているのは、やはりビートジェネレーションに興味を持ったことが大きいです。社会問題に対して文学でムーブメントをおこそうとするところが面白いなと。

ケルアックが書いた『ザ・ダルマ・バムズ』に「リュックサック革命」という好きな一節があるんです。アメリカの若者1万人がリュックサックを背負って世界中に飛び出すことで、当時の資本主義黄金時代みたいなものを変えていくことを唱えました。実際、アメリカの若者たちはバックパッカーになって世界をめぐり、その後、ヒッピーが生まれます。

旅をして外を見て戻ってきた人たちが、新しい視点を取り入れてヒッピーのコミューンをつくっていくところにすごく興味を持ったんです。コミューンができるとメディアが生まれて、その中でヒッピーの生活を成り立たせるための知恵がつまった『ホール・アース・カタログ』が出てきた。

坂井:そうそう、これさえあれば、どこでも生きていけるっていう僕らのバイブル。編集者の一人と友達なんですよ。

成瀬:そうなんですか!

坂井:載っているアイテムは通販で買えるようになっていて、今でいう、グーグルとかアマゾンみたいな本。

成瀬:まさに。スティーブ・ジョブズも『ホール・アース・カタログ』をバイブルにしていた一人ですよね。僕は『ホール・アース・カタログ』の本質は個人に力を回帰することだと思っています。
そしてジョブズは、当時は軍など特権的な人だけにしか扱えなかったコンピュータを、個人が使えるように、パーソナル・コンピュータをつくっていくというのも興味深いです。

坂井:僕らが20代前半だったころは「大人なんか信用できない」と反発する空気がありました。そうしたジェネレーションギャップがあったからこそ、ヒッピーのコミューンができていったんです。今、ヒッピーを描いている映画なんかを見ると、長髪で髭を生やしてっていうファッションばかりに目がいってしまうけど。ちなみに60年代後半にアメリカで生まれたブランド「GAP」は、「ジェネレーションギャップ」が名前の由来。ジェネレーションギャップは、当時のバズワードでした。

成瀬:ヒッピーは、行き過ぎた資本主義を止めて以前の状態に戻した、退化したという見方をする人もいると思いますが、僕から見るとヒッピーは、新しい思想をコミューンにどんどん取り入れていって、螺旋のように上へ上へとのぼりながら変化しているように見えます。しかも中央集権的ではなく、コンピュータをパーソナル化するみたいに分散化していく感じ。これは、今の時代でも求められている方向性なのではないかと思います。テクノロジーと思想が合わさり当時できなかったことが現実になる。それが螺旋をのぼることです。

坂井:今から50年も前の話をしているけれど、人間の感じることはそんなに差異がないのかもね。一見止まっているように見えても、内部は絶え間なく変わっている。このコンセプトは、鴨長明も言っているよね。河の流れは途絶えないけれど、流れる水はもとの水ではない。

成瀬:ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。

坂井:よく覚えていますね。

成瀬:鴨長明が大好きなんですよ。僕らは、バンを家兼オフィスにして移動しながら取材先で生活してオーディオガイドをつくっているのですが、そのバンライフと、鴨長明の方丈記っていうのがすごくリンクしているなと思っていて。鴨長明は、四畳半(=方丈)を、牛車で運んで転々といろんなところで暮らしていたんですよ。

坂井:鴨長明は、ノマドだったんだね。方丈記って、ほとんどがルポライティングですよね。

成瀬:はい。そのルポを動く家でやっていた。当時は、天災・飢饉、戦争が多くて、鴨長明は、時代が経っても住まいはなくならないけれど、家も住んでいる人も移り変わっていると言っています。大小ある家のうち残るのはわずかだし、人も二、三十のうちずっといるのはわずかに一人か二人。そこに依存していると時代に流されてしまう。だから外的要因に頼らない住まいのあり方として方丈は面白いと思いました。

坂井:本来、日本の家屋は、木や紙、土でできていて、台風が来て壊れても、その辺の山にあるもので、また作ればよかったんですよね。そこに鉄筋入れたり、プレハブを入れたりしてるうちに、おかしくなっていった。依存しないで生きていくには『ホール・アース・カタログ』をもう1回読んだほうがいいかもしれない。

成瀬:平安末期から鎌倉初期を今の時代とリンクさせると、色んな面白い部分があるんです。天災は今もまた多くなっていますが、バブルや恐慌など世界規模での不安が多い。そういった外的な不安要素に依存せず自立できる部分は自分でやる。個人のエンパワメントが、方丈記とつながっていきます。ぼくたちはバンを「動く方丈」と名づけています。

坂井:未来の人々は、きっとバンみたいな電気自動車で、自動運転で移動するだろうと僕は思っています。

成瀬:だいぶ現実的になってきていますよね。

成瀬さんが家兼オフィスにしているバン。

次ページ 「海まで移動し、波の音を聞きながら創作する」へ続く

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