【前回記事】「好奇心とイノベーション鼎談(ゲスト:平野啓一郎、坂之上洋子)」はこちら
一度も現地に行かず、リモートで高額発注できますか?
廣田:『好奇心とイノベーション』は、坂井さんが多様な方と対談した本ですが、僕はまずタイトルが魅力的だなと思いました。多くの企業でイノベーションを語るとき、利益を上げるためのイノベーションとか、技術分野でのイノベーションという文脈が多いと思うんですよ。なぜ好奇心という言葉をタイトルに選ばれたんでしょう。
坂井:もともと僕自身、広範囲に好奇心を持っていて、世界中どこでも面白いことがあると、現場に行くタイプの人間です。僕から好奇心っていう言葉は生涯はずれないだろうと思います。好奇心はイノベーションのきっかけなんです。要するに好奇心って、他者があまり関心のないことに突っ込んでいって、普通の人とは違う体験をするということ。『シン・ニホン』の著者の安宅和人さんは、それを異人って言ってますね。
廣田:偉い人じゃなくて、異なる人。
坂井:はい。僕も異人だったんだなと。1960年代の後半、アメリカにひとりで行ってビジネスを始めるような人は、自分以外、僕の周りにはいませんでした。人と違う体験に意味があると思っています。
廣田:坂井さんは、年齢的には大先輩なんですけど、精神年齢としてはむちゃくちゃ若い方だなと思っています。さて、本の中ではいろんな方と対談していますね。
坂井:皆さん全員面白い方。JINSの田中社長やノマドを実践している成瀬勇輝さん……。成瀬さんはバンの中が事務所であり住居で、旅をしながら暮らしているんです。面白いですよね。あの若さで、ヒッピーのことに詳しくて。
廣田:本の中でもお二人は意気投合していましたね。既成の体制とは異なる方向へ行く、ヒッピー的な価値観というのは、今も生きているんでしょうか。
坂井:ヒッピーが広まった60年代後半は、マイノリティを解放する運動が盛んだったんです。アフリカ系アメリカ人の解放運動、LGBTの解放、ウーマン・リブ。従来マイノリティって言われていた人たちが、どんどん自由になっていくっていう時代。今とちょっと似ているのは、ジェネレーションギャップが激しかったこと。僕らが20歳前後のとき「30歳以上の人はもう信用できない」って平気で言ってましたからね(笑)。今の日本では、デジタルリテラシーに対応できる人とできない人の2つがハレーションを起こしてます。
廣田:そうですね。コロナ禍にリモートワークが浸透して、デジタルを使いこなせるかどうかに対して関心が高まりました。
坂井:リモートトラストっていう言葉も出てきましたね。離れた場所でも一定の信頼関係を相手と築いて受発注できるようなスキルのことです。例えば、機械を調達するのに、現地に1回も行かず、4Kカメラとか8Kカメラを使いながら完璧に検品までリモートで行って、10億円振り込めますか?ってことなんです。
廣田:僕は、ビビってしまいますね(笑)。
坂井:商品を確実に手に入れて、しかもだまされないという能力がすごく重要です。
廣田:坂井さんの本の出版準備が行われていた期間は、特にコロナは関係なかったと思うんですけれど、本を拝読すると、リモートのことだとかポストコロナ時代の考え方に近いことが語られていて。いままさに読むべき話というか、この時代を生きていく上で、大事な心構えについて触れられていると思います。
坂井:コロナのワクチンができても、僕は元の社会に戻るとは思っていません。リモートワークの割合も増えていくでしょう。
廣田:そうですね。コロナで初めてリモートワークを体験した方も多いと思いますが、最初は戸惑いがあっても、ある程度慣れていくものだなと。
坂井:日本は通信も含めてテクノロジーを作るのはとってもうまいんだけど、使いこなすことをあまりしないんですよね。せっかくあるテクノロジーが使われていない。そのひとつがリモートに関するテクノロジーだったと思います。
廣田:通信環境として、いろいろなツールはあるけれど、人々のマインドがついていっていないということでしょうか。
坂井:はい。その意味で、コロナは多くの人のマインドを変えたと思います。
廣田:日本って、もともと、自分たちは技術立国だっていうプライドを持ってずっとやってきたと思うんですけれども、自分でテクノロジーを使いこなすぞって人は意外にも少なかったのかもしれない。
坂井:日本人は変わるのが苦手なんでしょうね。韓国とか中国はまったく逆で、テクノロジーを飼いならして、自分たちが変わろうとしています。
廣田:台湾でデジタル担当政務委員をされているオードリー・タンさんとか。
坂井:マスクの在庫状況を可視化したり、イケてますよね。彼女は、技術は使うためにある、ということをよく理解していると思います。
「そのイノベーションが、未来社会の当たり前になる。」バックナンバー
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