コラム

パーソナライゼーション時代-メディア企業のマーケティング戦略

転換期を迎える、日本のメディアビジネスを考察する — ①テレビ篇

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【前回】「世界で起きるメディア環境の変化を4つの視点で読み解く(後編)」はこちら

©123RF

顧客体験を起点とした編成に舵を切る、米国のテレビ局

これまで2回の本連載では、パーソナライゼーション時代におけるメディア企業のマーケティングを規定する世界的なトレンドとして①コンテンツ、➁顧客体験(CX)、③ディストリビューション、④マネタイズの4つを提示し、解説してきた。今回は、転換期を迎えるメディア産業の中でも、特にテレビに焦点を当てて、そのビジネスの在り方を考えていきたい。

まずパーソナライゼーション時代におけるテレビ局のマーケティング戦略の方向性を探る前に、マクロなテレビリテラシーの変化を見てみたい。

言わずもがなであるが、テレビというメディア自体は、マーケティングを実行するうえでもっとも重要な、放送されるブランドが「エボークドセット」入りを担保する機能としては全メディアの中で最も効果的かつ効率的なものであり、その機能性は疑う余地もない。しかし、視聴者のテレビの視聴態度自体が変化してきている昨今、そのポジションに安住するだけではなく、環境変化に応じた対応が必要になっているということを認識すべきであるということである。

そこで重要なポイントとして見えてくるのは、従来の「枠」ベースつまりタイムテーブルに沿った視聴形態が、受け手である視聴者つまりは「人」をベースにした視聴形態へ変化したというトレンドだろう。

ハードディスクやブルーレイ・レコーダーの普及により、録り溜めた番組を一気見する「ビンジ・ワッチング」が時間編成を崩壊させた一つのきっかけだったかもしれない。それ以外にも視聴者のライフスタイルの変化や、コラムの初回で述べたいくつかのパーソナライゼーション志向を生んだ世の中の大きな変化が必然的にもたらした流れだろう。

米国の各テレビ局は、この流れを早々に察知し、「枠」をベースとした時間編成から、「人」のライフスタイルや嗜好性をベースとした「CX編成」へと変化してきている。

CXつまり、顧客体験を起点にすれば、個々の嗜好性に寄り添ったパーソナライゼーションが重要になるが、人の数だけ番組コンテンツを揃えるわけにはいかないので、まずは誰もが見たがるプレミアム・コンテンツの力で契約を勝ち取り、CLV(Customer Lifetime Value)を最大化する過程の中でパーソナライゼーションを実行していくというマーケティング戦略をとっている。もう少し具体的に述べると、次のようなステップが基本となる。

ステップ1:誰もが見たいと思うプレミアム・コンテンツを獲得し、それをテコにVODやサブスクリプション契約を取り付ける

ステップ2:プレミアム・コンテンツばかり流すわけにはいかないので、視聴嗜好性を分析しつつ、個別の番組嗜好性を探るための効率的な「セグメンテーション」を行う

ステップ3:長期契約を勝ち取るために、会員のCLV最大化をKPIとして、その人の価値観を可視化し、パーソナルリコメンデーションを行い、退会を防ぐ

これらはもちろん有料でのコンテンツ配信のマーケティング戦略であるが、無料のストリーミング放送でも基本的には当該テレビ局への視聴誘導のために、このプレミアム・コンテンツの獲得が重要な役割を果たしている。

プレミアム・コンテンツは争奪合戦になるため、それ自体のポートフォリオ・マネジメントも重要で、特に安定して視聴率が見込める「ライブ・コンテンツ(スポーツなど)」と、収益性は高いが評価予測が難しい「エンターテイメント」系のコンテンツを組み合わせるノウハウが、各放送局の腕の見せどころとなっている。

図:テレビ局の未来マーケティングの方向性

上記の図は、メディア企業が置かれている現状をマイケルポーターの「5フォース」分析フォーマットに落としたもの。著者が独自に作成。

次ページ 「失われつつある放送法の優位性、競合が増える日本のテレビ産業」へ続く

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