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コラム

パーソナライゼーション時代-メディア企業のマーケティング戦略

転換期を迎える、日本のメディアビジネスを考察する — ①テレビ篇

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視聴率にも変化の波、テレビ産業の新たなビジネスKPIとは?

コンテンツの視聴スタイル、産業構造の変化に伴い、カレンシー(KPI)つまりは視聴率にも変化の波が押し寄せている。現状の動きとしては、日本では独占的に視聴率データを提供しているビデオリサーチ社(以下:VR)もいくつかの変革を行っている。従来、VR社は関東地区では900世帯のサンプルから統計的に視聴率を導き出し放送局に提供していたが、個人視聴率重視の流れを受け、年収や購買行動を切り口としてセグメントするために従来の3倍の2700世帯の視聴動向を提供することになったようだ。

これは、いわゆる「セグメント・マス」と呼ばれているターゲティングに対応するもので、従来あったデモグラフィックなセグメント(F1やM1など)だけでのターゲティングではなく、前述した年収や購買行動など、よりマーケティング上の要請に基づいた顧客セグメントを達成するための手段である。これにより、例えば、ビールをよく飲んでいる人がどの番組を見ているのかといったよりきめ細かな分類が統計上可能になる。

今やTVの視聴に関しても、どの家庭が何を見ているのかは、ハイブリッドキャストTVの普及とWi-Fiによるアドレッサブルな通信環境整備により特定することが可能にとなっており、全数分析による視聴実態の把握は理論的には可能である。

博報堂DYメディアパートナーズなどの「Atma®アクチュアルTV視聴ターゲティング」というソリューションでは、全国数百万台のインターネット結線テレビの視聴ログデータと連携しweb閲覧データなどのオンライン行動データと統合して活用する取り組みを開始しているし、電通は「STADIA」というTVメーカーごとの視聴ログを収集し、合意を得た家庭にはIDを付与し、その家庭がどういったネット検索行動をしているのかを紐づけ、TV視聴とネット行動を一つのIDのもと分析できる「アドレッサブル」なビジネスモデルを構築中である。

いずれの代理店もそれぞれ、博報堂は「生活者データ・マネジメントプラットフォーム」、電通は「ピープル・ドリブン・DMP」という消費者の行動データ基盤を整備してこのビジネスモデルをマーケティング活動に使えるようデータ分析環境を整備しつつある。

従来の統計学的視聴率に依存するマス型モデルから、全数データを分析したパーソナライズモデルへの進化に乗り遅れると、ビジネスチャンスを逃すだけではなく、日本の放送業界がガラパゴス化し、グローバルの競争から取り残され、黒船の襲来を招くことになる。これらビジネスのKPIとなる視聴カレンシーに関しては、あくまでも視聴者、つまり「人」を中心据えたKPIマネジメントが求められる。

議論しなければいけないクライテリアとしては、以下の通りだ。

・コンテンツレベルでのエンゲージメントレベルをどう見るか
・プラットフォームレベルでのエンゲージメントをどう見るか
・サブスクライバーとアドホック視聴者のポートフォリオをどう見ていくか
・コンテンツマネジメントをどうしていくか

これらの少なくとも4つの視点が重要となる。

いま述べたように、放送と通信の融合を前提として新たなビジネスモデルをどう考えるのか、それに伴う新たなカレンシーつまりビジネスKPIをどう考えるのかに関しては、両方とも「コンシューマー・セントリック」というコンセプトのもと検討を開始すべきであることは明々白々である。送り手の論理での検討ではなく、消費者を中心に置いたときに何をすべきかを検討しないといけないということだ。ただ、現状の放送局の番組では、視聴率を稼ぐために「CMまたぎ」や「山場CM」と呼ばれている番組制作手法がまかり通っている。

これは、クイズの回答やシーンのクライマックスをCMの後で放送するというティージング手法の一つであるが、消費者のエンゲージメント状態を無視している、視聴態度に対する強制である、などの批判も多い。今後、このような消費者のエンゲージメントを無視したコンテンツ制作や編成が続くと放送局のコンテンツは消費者からますます見放されていくことになってしまうのではないかと危惧する。

最後に、これらの状況を勘案して仮に日本のテレビ局が、視聴データ分析によるパーソナライズド・コンテンツの選択配信などのアドレッサブルモデルに踏み切るとして、重要な検討要素があることを指摘したい。人的リソースの問題である。

現在、テレビ局の人材の中心は、クリエイティビティーにあふれた編成・制作スタッフと、クライアント側に入りこむ能力の非常に高いパワフルな営業スタッフなどが中心であるが、今後はデータアナリスト、AIオペレーターなど従来の採用クライテリアになかった人材を確保していかなくてはならなくなるだろう。これらの人材はテレビ局に限らずデータドリブンな経営を目指す全業種で引っ張りだこであるため、どのように優秀な人材を確保し、新たなチームを編成していくのかも大きな課題となるだろう。