具体性のある発信を
釣流:発信の弱さは当グループでも課題です。例えば、メディアが実施しているESGに関する企業イメージ調査の結果からは、当グループはあまり環境問題に取り組んでいるイメージがないことが分かりました。実際は取り組んでいます。
例えば、セブン-イレブン・ジャパンの店舗約8000店には、すべて、太陽光パネルが搭載され、再生可能エネルギーを積極的に使用しています。ただし来店されたお客さまは、屋根の上まで見えません。具体的な取り組みに対する発信力の強化は、これからの課題と言えます。ただし、SDGsへの取り組みが中途半端なまま発信することもできない、とも思います。広報においても“誠実” に。目標に向けとことん追求する不器用さも含めた形で発信ができれば、と思っています。
田中:本学としても、発信力は課題で、私が総長に就任以後、すぐにブランディング戦略会議を立ち上げました。発信する内容の質についても、釣流さんが話された通り、重要だと考えます。
例えば大学憲章も、ただ発信するのみならず、読み手に明確なイメージを持ってもらうために、理念の「自由と進歩」に、もう少し具体性を帯びさせ、「自由を生き抜く実践知」という言葉を使いました。ここで重要なのは「生き抜く」、という言葉です。人はなかなか“自由” には生き抜けない。なぜなら、何かしら、社会の因習やらに縛られて生きているからです。だから、人の言いなりではなく、自分はこう生きる、と自主性を持って生き抜いてください、こうしたイメージを持たせました。
─社内や学内への発信では、どんなツールを活用していますか。
釣流:社内報があります。歴史は長く、1963年9 月の創刊からちょうど700号記念を迎えます。
田中:本学にも広報誌『法政』があり、卒業生へも配っています。もともとは紙媒体ですが、SDGsの環境負荷低減の観点からも、2020年度より全ページをウェブでも読めるようにしました。
釣流:当グループでもウェブ配信を始めましたが、紙の方がすぐに読めていい、と考える従業員もいて、ウェブでの配信だとまだPV数が少ないのが現状です。
田中:ウェブはこれから質の時代に入ります。そのことを今回のコロナ禍で痛感しました。授業のほとんどがオンライン化されたことで、授業の質の差がより顕著なものとなったからです。ウェブでの情報発信では、これからは質がさらに問われるでしょう。
─SDGsを軸にした建学精神、理念の浸透に関して、今後の展望を教えて下さい。
田中:本学のSDGsのリーダーとなっている川久保先生が、JMOOC(無料のオンライン講座のプラットフォーム)でSDGsの授業をつくりました。これで学内だけでなく一般の方々にも、法政大学のSDGsへの取り組みと、憲章、理念を発信できます。こうした機会を通じて、地域社会への発信も強化していきたいと思います。
釣流:当グループは小売業なので、小売業ならではの事業の“躍動感” を大事にしています。そのために必要な、新商品の開発などは、取引先とのパートナーシップを通じて生まれることが多いです。外へ発信し、反応をしっかり受け止めて、また新たな動きにつなげる。こうした好循環の構築を目指していきたいと思います。
(敬称略)
法政大学
総長
田中優子(たなか・ゆうこ)氏
1952年生まれ。神奈川県出身。2014年より法政大学総長。専門は日本近世文化・アジア比較文化。研究領域は、江戸時代の文学、美術、生活文化。『江戸の想像力』で芸術選奨文部大臣新人賞、『江戸百夢』で芸術選奨文部科学大臣賞・サントリー学芸賞。その他多数の著書がある。
法政大学
広報業務を所管するのは「総長室広報課」。計10人が所属(専任職員のみだと6人)している。
セブン&アイ・ホールディングス
執行役員 経営推進本部 サステナビリティ推進部 シニアオフィサー
釣流まゆみ(つりゅう・まゆみ)氏
西武百貨店に入社し、その後、販売促進などに携わる。2019年から現職。セブン&アイグループの現部署の責任者として、持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいる。
セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングス 広報センターの18人が広報業務に従事。
PR・報道は13人、社内コミュニケーションは5人が担当している。
コロナにより、ビジネスモデルからまさに“転換”を迫られている企業も多数見受けられます。そんな中、従業員の心をひとつにするのが企業理念です。
広報会議12月号の巻頭特集は、「『理念』転換期を乗り越えるコミュニケーション」と題し、住友商事やイノセントジャパンほか、大学にも注目し、理念をドリブンさせて関係者のエンゲージメントを効率的に高める方法を探ります。
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