『ブレーン』2021年1月号では「2020年を総括ニュースを生み出したクリエイティブ」と題し、この1年で話題を集めた広告について5人のクリエイターが語る座談会を実施した。それぞれP&G「パンテーン」、すみだ水族館、三陽商会「エコアルフ」、絶メシ食堂、727化粧品のオコジョの広告など話題の事例を手がけた方々だ。
この座談会をはじめ2020年を総括する中で感じたのは、クリエイターに期待されているのは企業のビジョンとクリエイティビティの両立である、ということだ。どんなに表現そのものが優れていても、ビジョンに基づいていない表現はステークホルダーに到達しなくなっている。経営者や経営に近いコーポレートコミュニケーションを司る方々が、かねてから口にしている「企業の理念やビジョンこそ重要」という考えをクリエイターが正面から受け止めることこそが「ニュースを生み出す」必須条件となりつつある。
さらに言えば、ステークホルダーが見ているのは広告表現やメッセージの一歩先である。つまり「ニュースが生まれる」「話題になる」の結果、実際の企業の行動がいかに変化していくかということだ。例えばSDGsへの対応もそのひとつである。企業規模を問わずSDGs経営に目が向けられている今、クリエイターにとっても広告界の仕事を通じた持続可能な社会への貢献は突き付けられている課題となっている。
実際に前述のクリエイター座談会でも重要なトピックとして挙げられたほか、2020年度のグッドデザイン賞でもSDGsを視野に入れたプロダクトやシステムが高い評価を得た。「社会実装されるデザイン」、すなわち企業の行動や仕組みを変革するデザインを重視しているのだと審査委員長らへの取材からも感じられた。
裏を返せば、企業がビジョンを明確に持っていなければクリエイターは力を発揮できないし、機能するクリエイティブやブランドストーリーは生まれないということでもある。
広告表現のその先、企業の姿勢や事業変革につながるようなクリエイティブの提案を企業は待つだけでなく、協働しながら生み出していける1年になるよう知識と情報を引き続き共有していきたいと考えている。
月刊『ブレーン』編集長
森下郁恵
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